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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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 六人姉弟と両親。とても仲のいい、けれどそれぞれに変わり者ばかりの家族。
 ストーリーは、あるようなないような。二番目の姉が友達の赤ん坊を自分がひきとって育てると言い出したり、しっかり者の末の弟が問題を起こして学校から呼び出されたり、嫁いで家を出ていた長姉が離婚すると言い出したり、そういうトラブルが起きたりはする。でも、それが本筋じゃない。全体的に静かなトーンで、ひとつひとつの出来事と、家族の関係性が、ゆっくりと丁寧に語られている。

 姉弟一人ひとりのキャラクターにクセがあって、それぞれに魅力的でした。とくに末弟の律。しっかり者で、物静かなのに姉弟の要になっている。

 ゆったりと進むお話を読んでいるあいだ、なぜかずっと、漠然と不安でした。すわりが悪いというか、落ち着かなくて、なんとなくうっすら怖くて。主たる理由は、お母さんの言動でした。
 この家族の中でいちばん不安定なのは、次姉のしま子ちゃんで、精神的に脆いところがあり、いつも周りから心配されているんだけども、わたしにはそれより、一見しっかりしているお母さんの描写のほうが、うっすら怖かった。

 お母さんが、生身に感じられなかったのかな。清潔で、厳格で、自分の世界を持っていて、それを譲らない。なんでかわたしには、それがすごく怖くて。言動から、主人公に対する愛情をあまり感じ取ることができなくて、なんだかずっとへんに冷たいというか、よそよそしい距離感のように読めて。それなのに主人公の方は、べったりというくらいなついているという。小さな反抗はあるんだけど、爆発しない。そのアンバランスさが、不穏な感じがしたというか……。

 多分わたしが、伏線でもないところを伏線のように曲解して、かんぐって読みすぎたんだと思います。あまりに違和感が残ったので、自分の感覚のほうを疑って、ブクログあたりで他の方のレビューを眺めてみたら、ほほえましいとか、癒されたとか、ほっとしたとか、こんな家族だったら! とかいわれてて。もしかして、自分の感覚のほうが、世間様とだいぶ乖離しているんじゃないかとか、ちょっとドキっとしたり。
 先入観を捨てて、もう一回あたまから読んだら、まるきり印象が変わるかもしれないです。

 それはそれとして。繊細な描写が美しく、好きなシーンもたくさんありました。末っ子の律が、学校から言いがかりのような理由で停学を命じられるくだりの、お父さんの態度がすごく素敵でした。しま子ちゃんがプレゼント攻撃から卒業したところも。読んで良かったと思う本であることは、間違いないです。

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 有名なタレントであり、どこへいってもファンに囲まれるはずの男・タヴァナーは、実験的に遺伝子改良を施された、スイックスという特異な人種でもある。それによって得た才を存分に活かして、輝かしくも華々しい人生を送っていた彼に、ある日とつぜん訪れた異変。消えてしまった戸籍、身分証明書。彼がこの世界に存在するという、ありとあらゆる証明が、あるとき唐突に、ひとつのこらず失われてしまった。そして、彼に関する人々の記憶もまた……。

 近未来を舞台としたこの小説世界では、かなり窮屈な管理社会であり、警察が大きな力を持っている。IDを持たずにうろうろしていれば、強制収容所送りになるか、下手をすれば射殺される危険もある。そんな世界で、わけもわからないままあらゆる身分証明を失って放り出された主人公は、なんとか状況を打開しようと、偽造IDを手に入れるのだけれど、その過程でさらなるトラブルに巻き込まれてしまう。
 やがて警察に目をつけられ、不幸な誤解から殺人の冤罪をかけられてしまったタヴァナーは、必死で身の証を立てようとするのだけれど……

 手に汗にぎる展開、見え隠れする希望と、くりかえしそれを押しつぶす絶望感。面白かったんだけども、なぜ彼が人々の記憶と記録から消えてしまったのか、という最大の謎の部分は、ちょっと解決に納得がいかないというか、腑に落ちないような感じがしたかなあ……。ラストはやや好みのわかれるところかと思います。

 本筋と大きく絡む場所ではないのだけれど、終盤にひとつ、とても好きな場面がありました。主人公の罪を冤罪だと承知の上で、保身のために罪をかぶせようとしている警察本部長。罪の意識に苦しみながら立ち寄った深夜のガソリンスタンド、そこで出会った黒人男性が、彼にかけた言葉の中ににじむ何気ない情が、すごく沁みる感じがしてよかった。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『マイノリティ・リポート』に続いて三冊目のディックでした。ほかの本も、もうちょっと読んでみたいなあ。

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 本題の前に事務連絡。明日は飲みにいってきますので、日記の更新ないかもしれません。




 短編集。
 森見さんの作品にしてはめずらしいくらいシリアスで、しっとりしたホラーでした。ほんのり切なくて、もの哀しく、けれど幻想ホラーというにはいささか生臭いような、ちょっと不気味な怖さがありました。正体のはっきりしない怪異が跋扈する京都の町。

 四篇の中では『果実の中の龍』がいちばん好きだったかなあ。主人公は大学生で、話の面白い先輩に憧れていて、よくつるんでいる。その先輩は、実に色んな話を面白おかしく聞かせてくれるのだけれど、話が進んでいくにつれて、だんだんその屈託が明らかになっていく。話が進むにつれてただよってくる、なんともいえない寂しさが好きでした。

 前に別の作品の感想の中で書きましたが、森見さんの作品のほとんどが、青春をこじらせた腐れ大学生が主人公で、悪ノリたっぷりのユーモラスな筆致なので、今回の直球でドシリアスな作風はとても意外でした。

 正体がわからないままの怪異が多くて、読み終えてもすっきりはしないというか、もやもやっとしたものが残る感じがしたかなあ。でも、そこが不気味でいいのだという気もします。
 わたしは怖いのが苦手なのですが、それほど怖くない幻想ホラーは大好きで、そういう意味では今回、ちょっとツボでした。いつもの悪ノリも大好きですが!

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浅田 次郎
新潮社
発売日:2007-04

 幕末の世、彦四郎は武家の次男坊として生まれ、剣術の腕も学芸も、そして人柄のよさも、同輩たちより秀でていた。にもかかわらず、その人のよさが仇となり、ときに利用され、ときに陥れられて貧乏くじをひき……。
 舅にだまされて失脚し、妻子から引き離されて離縁をいいわたされた彦四郎は、なんとかふたたび妻子と暮らせる道はないものかと、苦悩していた。川原に朽ちた祠を見つけ、酔った勢いで手を合わせたその次の夜には、さっそく立派なお店の主人のような人物が姿を見せて、己は神であると名乗りでた。ところが、出世を願い出る彦四郎に、男はいう。「もしや、勘ちげえをなすってらっしゃいませんかい。手前は世を欺いてこんなたいそうななりをしているが、取り憑いて喜ばれるほどの者じゃござんせん」言葉を失う主人公に、男は続ける。「手前は、貧乏神でございますよ」

 つくづく運はないものの、主人公の人柄をちゃんと見てくれている人々もいて、意外なところで買われてもいる。しまいには疫病神の面々も、彦四郎の気概にうたれて、祟りを逃れる方法について一緒に考えてくれる有様。けれど最後の最後の選択で、彦四郎が選んだ道は……

 さて、ここから先の内容ですが、ファンの方にはちょっと申し訳ないような、批判的な意見が混ざってきますので、お好きな方はご注意ください。
 わたし自身、浅田次郎さんの本はとても好きなので(といってもまだ読んだのは十六冊くらいで、これからもちょっとずつ読んでいこうという段階ですが……)、たまたま今回ちょっと合わない部分があったという、それだけなのですが。


 といいつつも、全体的には面白かったんです。読んでいて飽きないし、笑えるシーンは可笑しいし、じんと沁みるような場面もあるし。だから全体的に面白くなかったというのではなくて、気になったのは、ほとんど一点だけなんです。ただひとつ、主人公の描写が、なんとなくビミョーに思えて、そこが最後までずっとひっかかって、あともう一歩をのめりこみそこねました。

 や、悪い人とかイヤなやつとかじゃないんです。単純で正直で、根はお人よしで、憎めない。むしろとてもいいキャラなので、そのままふつうに憎めないキャラとして描かれていれば、素直に共感して読めたと思うのです。
 が、なんだろう。読んでいて自然に言動から感じ取る人徳や能力以上に、周囲からこれでもかこれでもかと持ち上げられるので、「えっ…………どこが?」といちいち思ってしまったのでした。
 普通にいいやつだけど、普通に弱いところも卑怯なところも、調子のいいようなところもある。けして悪い人ではないけれど、そこまで褒めちぎられるほど高潔には見えないし、そこまで賢いこともいってないんじゃない……? というような。

 この際、もっと主人公のすぐれた人徳ががっつんがっつん伝わってくるようなシーンを、正面からばりばり描いてあったほうが、よかったんじゃないのかなあ、と思いながら読んでいました。あるいは逆に、主人公がもっとずっと弱くて卑怯で、そういう自分に自己嫌悪で苦しみつづけているようなタイプの人間だったら、逆にラストの選択肢が輝いて、活きてきたんじゃないだろうかとか。

 と、主人公の扱いにちょっと疑問はあったものの、ひとつひとつのエピソードは面白かったです。妙に親しみやすい疫病神たちをはじめ、ちょっとクセがあってすっとぼけたような脇役のひとりひとりが魅力的でした。

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 短編集。ごく短い十二本のお話のあつまり。

 すれ違う恋人たち、割り切れない苦しみ、家族への複雑な感情、……少し違うな。そんなふうに言葉にして要約しようとすると、その隙間からとりこぼれていく何か、のほうが、肝という気がする。

 文学がしばしばそうであるように、娯楽性に慣れきった身からしてみると、ひとつずつは読み終えて物足りない感じがありました。ストーリーが始まる前に終わってしまって、乗り出しかけていた身が肩透かしをくらうような感じ。え、え、それでどうなったの? ここでこの話、終わり? というような。話に起承転結があってわかりやすい結末があって、という構造に慣れきってしまっているんだなあ。

 でもひとつひとつのお話で、いちばん肝心の部分は、この中で書ききってあるんだろうなとも思います。その瞬間、みたいなものを、鮮やかに描き出してある。ラストの「そこなう」が一番好きだったかな。

 いつまでも胸をひっかくような後味が残る。感動して涙を流してカタルシス、みたいなのじゃなくて、読み終わって、よくもわるくももやもやする。だいぶ経ってからでも、きれぎれのシーンをふっと思い出す。
 文学とは……みたいなことは、学がないのでよくわかりませんが、文学賞をとった作品には、多かれ少なかれそういう手触りがあるような気がします。

 それにしても、くせになる文章だなあと思います。うつくしい表現がいっぱいある。描写の密度、しめった寂しさ。
 寂しいと叫んでいるような文章って、昔から妙に好きです。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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