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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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浅田 次郎
新潮社
発売日:2007-04

 幕末の世、彦四郎は武家の次男坊として生まれ、剣術の腕も学芸も、そして人柄のよさも、同輩たちより秀でていた。にもかかわらず、その人のよさが仇となり、ときに利用され、ときに陥れられて貧乏くじをひき……。
 舅にだまされて失脚し、妻子から引き離されて離縁をいいわたされた彦四郎は、なんとかふたたび妻子と暮らせる道はないものかと、苦悩していた。川原に朽ちた祠を見つけ、酔った勢いで手を合わせたその次の夜には、さっそく立派なお店の主人のような人物が姿を見せて、己は神であると名乗りでた。ところが、出世を願い出る彦四郎に、男はいう。「もしや、勘ちげえをなすってらっしゃいませんかい。手前は世を欺いてこんなたいそうななりをしているが、取り憑いて喜ばれるほどの者じゃござんせん」言葉を失う主人公に、男は続ける。「手前は、貧乏神でございますよ」

 つくづく運はないものの、主人公の人柄をちゃんと見てくれている人々もいて、意外なところで買われてもいる。しまいには疫病神の面々も、彦四郎の気概にうたれて、祟りを逃れる方法について一緒に考えてくれる有様。けれど最後の最後の選択で、彦四郎が選んだ道は……

 さて、ここから先の内容ですが、ファンの方にはちょっと申し訳ないような、批判的な意見が混ざってきますので、お好きな方はご注意ください。
 わたし自身、浅田次郎さんの本はとても好きなので(といってもまだ読んだのは十六冊くらいで、これからもちょっとずつ読んでいこうという段階ですが……)、たまたま今回ちょっと合わない部分があったという、それだけなのですが。


 といいつつも、全体的には面白かったんです。読んでいて飽きないし、笑えるシーンは可笑しいし、じんと沁みるような場面もあるし。だから全体的に面白くなかったというのではなくて、気になったのは、ほとんど一点だけなんです。ただひとつ、主人公の描写が、なんとなくビミョーに思えて、そこが最後までずっとひっかかって、あともう一歩をのめりこみそこねました。

 や、悪い人とかイヤなやつとかじゃないんです。単純で正直で、根はお人よしで、憎めない。むしろとてもいいキャラなので、そのままふつうに憎めないキャラとして描かれていれば、素直に共感して読めたと思うのです。
 が、なんだろう。読んでいて自然に言動から感じ取る人徳や能力以上に、周囲からこれでもかこれでもかと持ち上げられるので、「えっ…………どこが?」といちいち思ってしまったのでした。
 普通にいいやつだけど、普通に弱いところも卑怯なところも、調子のいいようなところもある。けして悪い人ではないけれど、そこまで褒めちぎられるほど高潔には見えないし、そこまで賢いこともいってないんじゃない……? というような。

 この際、もっと主人公のすぐれた人徳ががっつんがっつん伝わってくるようなシーンを、正面からばりばり描いてあったほうが、よかったんじゃないのかなあ、と思いながら読んでいました。あるいは逆に、主人公がもっとずっと弱くて卑怯で、そういう自分に自己嫌悪で苦しみつづけているようなタイプの人間だったら、逆にラストの選択肢が輝いて、活きてきたんじゃないだろうかとか。

 と、主人公の扱いにちょっと疑問はあったものの、ひとつひとつのエピソードは面白かったです。妙に親しみやすい疫病神たちをはじめ、ちょっとクセがあってすっとぼけたような脇役のひとりひとりが魅力的でした。

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