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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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ティム オブライエン
文藝春秋
発売日:2009-06-10

 舞台は2000年、アメリカ。1959年に大学を卒業した人々の、31年目の同窓会。五十代になった彼ら、彼女らが抱えるそれぞれの後悔、苦悩、古傷、孤独。
 五十代。結婚と離婚を経て、あるいは病気を抱え、叶わなかった夢を思い、失ったものを数えて。かつての恋を思い出し、センチメンタルになったり、もう一度情熱を燃やしかけて、途中でくじけてみたり。

 スーパーヒーローが出てくるわけでもなければ、幻想ものでもSFでも、ミステリでもロマンあふれる歴史ものでもなく。そこにはただ、それぞれに生きて苦しむ、普通の人々の姿があるだけで。そのうえ舞台がアメリカで、主役たちは五十代。
 自分が共感する要素なんて、ほとんどないようにも思えるのに、とにかくのめりこんで読みました。

 感傷、それから、孤独。

 戦争文学で有名な作家さんで、実際「ニュークリア・エイジ」や「本当の戦争の話をしよう」は、どちらも戦争をメインテーマにすえた素晴らしい作品でしたけれど、戦場から離れた本作も、やっぱりよかったです。
 つらく苦しいシーンも多いので、誰にでもオススメしていいかということを考えれば、ちょっと悩みますが、個人的にはすごく惹かれる作家さんです。

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森見 登美彦
ポプラ社
発売日:2011-04-06


 このごろ森見さんの本ばっかり紹介してるのは、四月にはまって以来一気にかき集めて読みまくったからです。(そして四月に読んだ本のレビューをいまごろしている)

 さておき。
 僻地の研究所に飛ばされて、ぽつんと寂しくクラゲの研究に勤しむ大学院生の主人公。ほとんど他人と口をきくこともなく、研究の指導をしてくれる谷口氏に罵られるのがせいぜい。せっかくだからこの機会に、文通の腕を磨こうと思う、と彼はいう。
 ゆくゆくはいかなる女性も手紙一本で籠絡できる技術を身につけ、世界を征服すると嘯く主人公は、しかし、実際には意中の女性に宛てた手紙一通書くのにまごまごし、先輩や友達に背中を押されて、書いては奇天烈な内容になって丸めてを繰り返す始末……

 主人公から友人たちへ宛てた手紙をベースに、ときに他の人物が書いた手紙も交えた、書簡集スタイルの小説。
 全体にコミカルで、森見さん全開の一冊でした。情けなくて、見栄っ張りで、大言壮語の癖があって、でもすぐくよくよする、青春をこじらせまくった主人公。
 ドSで行動力に溢れすぎる先輩女史・大塚さんのキャラクターが、強烈でなんともたまりません。

 おっぱい万歳に大爆笑しました。腹がよじれるほど笑った。
 森見さんの著作の中で、いまのところ、「有頂天家族」「新釈 走れメロス」に続いて好きな本です。

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 これからは竹林の時代である。ある日きゅうに思い立った登美彦氏。小説だけ書いていて本当に安泰なのか、これからは多角的経営の時代ではないのか。何より、竹林はいい。荒廃した竹林による環境破壊を防ぐ。理想の竹林を作って手入れし、そこに庵を結んで世俗を離れて暮らすこともできる。おいしいタケノコが食べられる。竹製品を売りさばいて大もうけもできる!
 その日を夢見て、小説執筆のかたわら、まずは練習と知人の竹林にお邪魔して、手入れをはじめる登美彦氏。
 竹林経営のパイオニアとして世界各国に支社を持つMBC(モリミ・バンブー・カンパニー)の最高経営責任者として経済界に燦然と輝く日は、けして遠くはない……はず。

 ――という妄想エッセイ。

 なんでその内容で文庫本一冊分にわたってエッセイを連載しえるのか、真面目に考えると不思議でならないんですけども、しかし読んでみればやはり面白く、思い切り笑わせてもらいました。脱線がまた面白い。
 奔放に羽ばたく壮大な妄想、対照的な現実、登美彦氏の周囲のオモチロイ人たち。それが、お得意のすっとぼけた文体で綴られていて、終始にやにやしながら読んでました。

 森見さんの小説がお好きな方には、こちらのエッセイもけっこうオススメ。
 あとどうでもいい余談なのですが、書店でこの本の光文社文庫版を買って帰って、読み終わってからふと見ると、帯に「こんなにも勇気をくれる小説があったんだ! 吉川英治文学新人賞受賞作、待望の文庫化!」って書いてありました。気づかずに買っちゃうわたしもわたしだけど、いくらオモシロエッセイだからって、ぜんぜん違う小説の帯を折りこまれてるとか、そんなところまでオチをつけなくても!(業者さんが間違えただけだと思います)

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 京都の町に暮らすのは、なにも人ばかりではない。洛中には大勢の狸たちが暮らしており、ときには人間に化け、彼らに混じって右往左往する。人と狸ばかりではない。そこには天狗もいる。
 狸のなかでも名門の家系、下鴨の一族には、かつて洛中に名高い立派な狸・下鴨惣一郎がいた。その偉大な狸が遺したのは、四匹の息子たち。だが生憎と、四匹はいずれも少しばかり、親父殿のあとをつぐには器が小さかったようだと、三男坊である主人公・弥三郎はいう。

 真面目で責任感が強いが土壇場に弱い長男。世を捨てて蛙に化け、長いこと井戸の底にて暮らすうちにうっかり狸の姿に戻れなくなってしまった引きこもりの次男。面白きことは良きことなりを口癖に、とにかくふらふらと腰のすわらない三男。化けるのもいまだ下手、とにかく臆病な四男。

 四匹が、とにかく、可愛い!
 そのお母さんも、可愛い!
 主人公の師匠である天狗の、もとは立派だったはずなのに人間の女に骨抜きにされて、わがままと毒舌を吐き散らして強がるばかりの赤玉先生も、可愛い!
 その先生をたぶらかして婉然とほほえむ弁天の、悪女っぷりがまた清々しい!

 毛玉の魔力にすっかりやられてしまいました。悶絶です。
 ドタバタコメディで、抱腹絶倒ながらも、ときにしみじみともの悲しい哀愁があふれ、ほろりと涙せずにはいられない。後半にはいって次々と明かされる謎、ときに手に汗握るスリリングな展開。(なんせ、主人公は狸鍋にされる危機!)
 めちゃくちゃ面白かった。
 森見さんの小説のなかでこの本がいちばん好きです。

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 本題の前に。末尾に拍手コメントへの返信があります。ありがとうございます。


 サボっているうちに読んだ本のレビューが溜まってきまして。その宿題を溜めてる感がだんだんツラくなってきたので、一本ずつきっちり書くのは諦めて、以後、特に印象深かった本にしぼって、ざっくりした紹介でいこうと思います。場合によっては、先月読んだ本的に、何冊かまとめて紹介するかもです。
 前から読んだもののレビューを逐一書きつつ、でもこういうのってあんまり需要ないかもなあとは思ってたんですけど。でもやっぱり好きな本は布教したいし!(←本音)


 ……などと宣言しつつ。
 今日はル・グウィン作「西のはての年代記シリーズ」の紹介を。

ギフト 西のはての年代記Ⅰ (河出文庫)
ギフト 西のはての年代記Ⅰ (河出文庫)

 ハイ・ファンタジー。
 三部作です。ギフト、ヴォイス、パワー。ハードカバーでどうだったか確認してませんが、購入した河出文庫版では、パワーだけ上下巻になっていて、合計4冊。

 まさにこういうファンタジーを読みたかったのだ、という異世界ファンタジーでした。生きているうちに出会えたことを感謝したい。ル・グウィンはゲド戦記から入って、SF作品を中心に読みすすめてきましたが、この作品がまちがいなくいちばん好きです。

 第一部は、西のはての高地を舞台にはじまります。その辺境の地に住む人々がもつ特別な魔法、「ギフト」。誰でもそれがつかえるわけではなくて、その力を持った人々が、そうでない人々を農奴として抱えて、貧しい土地で、ときに助け合い、ときに争いながら暮らしている。
 その中でも、とりわけ恐ろしいギフトをもった一族に、主人公は生まれる。一人息子である彼は、父親から受け継いだはずのギフトを、なかなか発現させることができず、その期待にこたえられないことに悩んでいた。だがある日、恐ろしい形でそれは発現し、彼は自分の制御できない力に怯えて暮らすことになる……
 第二部以降は主人公を変えつつ(第一部の主人公も重要なキーパーソンとして登場しますが)、それぞれの目を通して、ひとつの世界が描かれている。その世界と、そこに暮らす人々の、血の通っていることといったら! 魔法や風土や、文化や歴史や信仰が、人々の生活に密着して活き活きと描かれて、なおかつそれが、壮大で魅力的なストーリーと絡み合っている。

 異世界ファンタジーがお好きな方で、もし未読の方がいらっしゃったら、ぜひとも読んでいただきたいシリーズです。


 つづきは拍手コメへの返信です。

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