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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 読了。

 顔見知りのあの子が誘拐されたと知った時、驚いたり悲しんだり哀れんだりする一方で、わが子が狙われなくてよかったと胸をなでおろしたのは私だけではあるまい――
 近所で誘拐殺人事件が起きた。主人公は食品メーカーに勤務するサラリーマン。自分のことを、他人に無関心で冷酷な人間だと自覚しているが、妻や一男一女と暮らす平和な日常を、それなりに愛してもいる。
 他人の不幸は、気の毒なことではあるが、それでも対岸の火事には相違ない。近所で起きた事件が、やがて東京近郊でたて続けに起きる連続誘拐殺人事件に発展したときにも、まだそう思っていた主人公だが、小学六年生の息子の部屋で、一連の事件の犯人しか持ちえないと思われる、数々の証拠品を見つけて……

 深かったし、面白かったけれど、もうちょっと突っ込んだ結末まで読みたかった、というのが正直な感想です。
 とはいえ、作品テーマとしての結論はしっかり描ききられているように思うので、文学作品として不完全ということはないと思うのだけれども……というか、むしろ結末を書いてしまえば、作品の主題としては蛇足になるのかもしれないのだけれども。
 しかし、エンターテイメント作品のつもりで読むには、真相がどうだったのか、もう少しでもいいから、ほのめかしてほしかった気がします。ミステリの形式をとっているだけに、カタルシスの得られるはっきりした結末を期待してしまって、肩透かしを食らったというか……。
 まえに読んだ歌野さんの『葉桜の季節に君を想うということ』の結末が、すごく意外性があって痛快だっただけに、そちらの方面に過剰な期待をしてしまったというのもあります。

 ……などと言ってはみても、内容そのものは、面白かったです。
 わが子が犯した(と思われる)犯罪に、正面から向き合えない。その罪の大きさによりも、平和な日常生活を失うことにばかり怯えている小心な自分……。どこにでもいる普通の人間が、自分の心の弱さに振り回されて、保身を図りたがり、都合の悪いことを見なかったことにしたがる。けれど目を逸らして完全に知らないふりをすることもできない。その弱さが他人事じゃなくて、読みながら怖かった。

 もし自分に子どもを育てた経験があれば、また違った感想が出てきたかも……とも思います。

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