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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 読了。

 新撰組に関する短編を集めた歴史・時代アンソロジー。(司馬遼太郎/柴田錬三郎/北原亞以子/戸川幸夫/船山馨/直木三十五/国枝史郎/子母沢寛/草森紳一)
 正直、司馬遼太郎さんのお名前に惹かれて買ったようなものなのですが、他の作品もそれぞれ楽しめました。

 北原亞衣子さんの『降りしきる』がちょっと印象深かったです。芹沢鴨が強引に押し倒した結果、芹沢に惚れて屯所に通いつめるようになった商家の娘・お梅が、一方では土方歳三のことをずっと気にしていながらも、意地を張ってその気持ちを伝えられないでいるうちに、芹沢を暗殺するために部屋に押し入った土方に、斬られて死んでしまうという悲恋のお話です。
 現代女性の価値観で読むなら、身勝手な男たちにぷんすか怒るべきでしょうか。それとも芹沢鴨の女でありながら土方歳三に気持ちの向いている主人公に、気の多い女だなあとあきれるべきでしょうか。いまとは価値観の違う歴史ものの、それもフィクションの部分に、自分の尺度を当てる無粋よりも、素直に物語の情感を楽しむのが正解かなと思います。女の意地がいじらしいような、かわいそうなようなで、ええなあと思います。悲恋系のストーリーを読むなら、ファンタジーか歴史モノがいいです。現代女性の悲恋ものだと、なんだか必要以上に感情移入したり、即物的なツッコミを入れたくなりますので。

 うーん、それにしても、一時に色んな作者さんの近藤像・土方像・沖田像を並べて読むと、興味深いような、混乱するような、不思議な気分になります。やっぱりイメージがちょっとずつ違いますねえ。
 歴史小説って、ある程度のところまでは史実(資料や当時を生き延びた人の談話)に基づいて書かれているけれども、細部については結局のところ、作者さんの想像で補うしかないわけで、同じ出来事が、別の作家さんの手にかかるとまったく違う色合いを帯びて描写されるというのが、面白いような気がします。

 土方歳三の最期なんて、司馬遼太郎さんの名作『燃えよ剣』では、死に場所を求めて戦いに戦った挙句、敵に囲まれて馬上で射撃されるという、渋いけれども派手なシーンでして、それがいかにも、凄絶な男の死に様というふうで、もちろん悲しいシーンではあるのだけれども、痺れるようなカッコよさなんです。
 それが、このアンソロジーに収録されている草森紳一さんの『歳三の写真』では、敵情を探ろうと屋根の上で双眼鏡を覗いているところを、撃たれて屋根から転げ落ちたという、ちょっと間の抜けた構図で、最初に読んだほうのストーリーの印象が強いだけに、あれっという感じ。
 ……と、後者も、ほんとうに間抜けな感じに書いてあるわけじゃなくて、これはこれで、前段における土方と写真についてのエピソードが、時代のうねりと取り残された旧時代の価値観の対比が、哀愁を感じさせて、いいラストなんですけれども。

 どこまでがきちんと資料の残されている史実で、どこからがフィクションなのか、不勉強なものでよく分からないのですけれども、司馬遼太郎さんの書かれる歴史上の人物のエピソードには、いつもロマンがあふれています。
 男のロマン的なものって、現実の生活の中では「ロマンで飯が食えるか!」って思うんですけど(←身もふたもない)、フィクションの中ではものすごく憧れがあって、でも自分が書こうとして書けるかというと、何をどうやっても水っぽくなるので、いいなあーと思うような作品を読むと、うれしいけれども、同時にちょっと悔しいです。

 ……これ、どっちかというと『燃えよ剣』の感想記事じゃない?
 ええと。
 ちゃんとそれぞれに面白かったですよ!

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