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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
浅田 次郎
文藝春秋
発売日:2009-11-10

 短編集。
 靴磨きから成り上がって大企業の社長にのぼりつめた男。戦時中にもっとも過酷な最前線で戦って生き延びた旧日本軍の士官。故郷を遠く離れて上京したにもかかわらず、学生運動のとばっちりで学業に精を出すこともままならなくなった青年。大正時代の吉原女郎と、彼女に惚れて身請けしようとしている男。

 時代のにおいがする作品というのは、いいものだなあと思います。
 表題作『月島慕情』では、これまで辛い思いをしてきた吉原女郎のミノが、年もいってあきらめきった頃に、思いがけず身請け話をもらう。それも惚れた男から――。これでやっと自分も人なみの人生を送れると、幸せをかみしめるミノ。だけど、男のもとに身を寄せる寸前になって、相手がいったい何を捨てて自分と一緒になろうとしていたかを知り……。

『雪鰻』は、自衛隊の将校が、酔って鰻の包みを手に詰め所に立ち寄るところから話が始まります。将校は、当番の隊員に鰻をくれて、「自分は鰻は大好物だが、一生食べないと決めたのだ」という。悪酔いをしたふうの将校は、その理由、戦時中の体験を語りだした。
 かつてもっとも過酷な最前線に配置された彼は、薬も弾薬も食べ物も、何もかもが底をつきかけた過酷な状況で、仲間たちが飢えと病気に苦しんでいるそのさなかに、とつぜん安全な地域まで呼び戻されたのだという。皇族のひとりが、前線で戦っている士官の話を聞きたいといいだしたという、ただそれだけの理由で。その会食の場でふるまわれたのが、鰻だった……。

 泣けるお話が売りの浅田次郎さんですが、とりわけ印象深い作品が多かったです。哀愁と浪漫がぎゅぎゅっとつまった一冊。

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