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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
光の指で触れよ (中公文庫)
光の指で触れよ (中公文庫)


 読了。

『すばらしい新世界』で描かれた家族のその後のお話。夫が恋をして、それを知った妻が混乱のうちに家を出て行ってしまう。それも、下の子の手を引いて、ヨーロッパまで飛び出す。上の子はすでに寄宿生として家を出ていて、すっかりばらばらになってしまった四人。
 日本に残った夫も、ヨーロッパを転々とする妻も、それぞれの場所での出会いがあり、新しい世界を知る。偶然そのどちらにも共通した出会いは、農業。企業がやるような、大規模な単作の農業ではない、その土地にあったやり方で、たくさんの種類の農作物を組み合わせて作って、農薬に頼らず、効率をもとめず、自分にほんとうに必要な物以外を望まない、そういう暮らし方。やがて再会した夫婦は、そのあとの生き方をどう選択するのか……

 主人公の一方である夫のほうは、風力発電を専門とする技術者です。前作で、めったなことでは壊れずメンテナンスの容易な小型の風車を開発して、各国に向けて売り出し、大型の発電所を作るにはむかない僻地に導入するような、大きなプロジェクトを立ち上げています。ほんとうなら勤続年数からも、それだけの実績からも、とっくに管理職になっていないといけない頃なのに、意地でいち技術者として現場にとどまっている。そういう主人公の立場からの、工学的で技術者よりのものの見方。それから、もともとスピリチュアルなものに関心のある妻の、生き方や哲学、精神の在り様についてのものの捉え方。その両方の目で、地に足のついた暮らしということ、人の幸福ということを考える。
 池澤夏樹さんは文系理系の両分野にたいへん関心と造詣が深い方で、世界を丸ごと、それもいろんな広い視点から、冷静に、だけど誠実に見つめるその視線が、いつどの作品を読んでいても、すごい、と思います。

 あと、解説がすごくぴしゃりとはまっていて、そうそう、と思いました。池澤夏樹さんの小説は、あらすじだけ読んでも、本当のよさがわからない。こういう生き方もあるんだ、こういうものの見方があるんだ、という感覚。読んだあと、自分の世界をすこしだけ広げてくれる。そんな本です。
 前作を読まなくても話はわかるけれど、前作の『すばらしい新世界』もよかったので、ご興味のある方は、そちらから読まれてもいいかもしれません。

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