小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
即興三語小説。
たまには純然たる恋愛モノを書こうと思ったのはいいのだけれど、つくづくへたくそだなあと痛感した一本(涙)
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ふわりと鼻をくすぐるセブンスターのにおい。煙草やめてって頼んだら、わかった、やめるよって頷いたのに、ぜんぜん約束を守る気なんてない、あなたがキライ。だけど、バレてないとか思ってる、あんがい抜けてるところが、ちょっとスキ。
もぞもぞと枕に顔を埋める。肌の上をすべるさらさらのシーツ。あなたのにおいに包まれて、こうしてまどろんでいるときが、人生で一番幸せな時間だって思う。だけどきっと、あなたはそろそろ、あたしの肩に手を置く。ほら、こんなふうに。
「そろそろ起きなよ」
そういって、ぜったいに泊めてくれないあなたがキライ。だけどやさしく肩をゆさぶる、あなたの手はスキ。骨ばった、長い指。意外に整った爪。爪のかたちがきれいねなんて、男のひとにいう誉め言葉じゃないけれど。
「ん、うん。んー」
わざと眠そうな声を出して、シーツにしがみつく。後ろ頭に降ってくる、困ったような気配。眠いのなんて、ただのフリだって、わかってないの? それとも気づかないフリしてるだけなの。
「明日、仕事なんだろ」
そんなふうに、やさしい声でいうあなたがキライ。
「送るし。車の中で寝てなよ」
「ん。うん……」
不承不承、シーツから抜け出すと、エアコンの音がやけに耳につく。いつだって寒すぎず暑すぎないこの部屋。白々として、家具の少なすぎる、生活感のない部屋。
ほんとはあなたひとりのときは、エアコンなんて使わないんだって、ちゃんと知ってる。自分は暑いのはへっちゃらなくせに、あたしがくるときの設定温度はいつも23℃。あたしは、あなたの、そんなところが。
目を擦って、わざとゆっくり服を拾う。あなたは急かさないで、じっと待ってる。困ったように、色の薄い目をちょっと細めて、車のキーを揺らしながら。
なんでそんなに優しいの、って。
一度くらい、正面から訊いてみようか。
だけど答えは、たぶん知ってる。あなたには、あたしとずっと一緒にいるつもりなんてないから。いっときの、短いあいだのことだから、こんなふうにワガママもきいて、イヤな顔ひとつしないで……。
ねえ、そうなんでしょうって、問い詰めたい。でも訊けない。ホントはわかってる、だけど確かめたくない。そんな負け犬根性なあたしがキライ。
車のヘッドライトが、雨に濡れた地面を切り裂いていく。深夜の国道を、ゆっくりと流す。スピードを出さないのは、性格? それとも少しくらいは名残惜しいと思ってくれてるから? 口には出さない問いかけ。これまでいくつの言葉を飲み込んできたのか、もう自分でも、よくわからない。
あたしとずっと一緒にいるつもりなんて、あなたにはきっとない。でも、じゃあ、その理由はなに。仕事のこと? ご両親のこと? 前の恋人を忘れられないから? それとも全部?
すべての質問を喉もとでのみこんで、あなたの横顔をじっと見る。眼鏡の下の、穏やかなまなざし。頬にちょっとだけ残るニキビあと。薄い唇。ときどき振り向いて目の端で笑う、その瞬間に寄る小さなシワ。
ずっと一緒にいられないんだったら、やさしくなんてしないでほしい。ときどき叫びだしたくなる。泣き喚いて、あなたに縋りたくなる。ウソ。やっぱりやさしくしてほしい。せめて一緒にいられるあいだくらいは。
あなたがスキ。あなたがキライ。
ふりまわされるあたしがキライ。
欲望も、執着も、恋情も、孤独も、焦燥も、嫉妬も、慟哭も、劣等感も、自己嫌悪も、なにもかも全部とおりすぎて、漂白されて、キレイに抜け落ちてしまえばいいのに。カミサマの愛みたいに、何もかも許して包み込む、優しくて、穏やかで、誰にも妨げられないかわりに誰のことも妨げない、そんな気持ちで、あなたをスキになれたらいいのに。そうしたらきっと、もっと……。
だけどどうしても願ってしまう、求めてしまう。ずっと一緒にいてほしい。そばを離れないでほしい。こんなふうに平気な顔で、あたしを家まで送ったりしないで、朝まであなたの横にいさせてほしい。明日の約束がほしい。明後日もこの週末も、来週も来月も来年も隣にいるって約束がほしい。たとえば遠く離れても、あなたが幸せだったらそれでいいなんて、そんな風には思えない。
どれだけ思っても、車は確実に信号を過ぎ、交差点を過ぎて、街灯の下で止まる。あなたはゆっくりギアを入れ替え、サイドブレーキを引く。
「送ってくれて、ありがと」
飲み込んだすべての言葉のかわりに、あたしはいう。あなたは微笑んで、何もいわずに頷く。いつもそう。あたしはあなたの口から、次の約束がほしいのに。
「来週は、会える?」
しかたなく、あたしはそう、自分から訊く。あなたの答えは知っているのに、それでも虚しく問いつづける。
「わからない。電話する」
優しい声で、そっけのない返事。いつもそう。あなたは次の約束をしない。再会をほのめかす言葉さえ、口に出そうとはしない。
どうして、って。そう大声で叫びたい。深夜の住宅街なんて、そんなこと関係ない。あなたの胸倉を掴んで、問い詰めたい。
「待ってる」
だけどあたしはただ、小声でそう返す。あなたは小さく頷いて、ウインドウを上げる。そのままあなたはじっと待つ。あたしが家の中に入るのを。
あたしは部屋のドアを閉めて、背中にすべての神経を傾ける。あなたの車のエンジン音が、ゆっくりと遠ざかっていくのを、じっと背中で聞いている。夜に溶け込んで、完全に聞こえなくなるまで。そうしてあたしは、ひとりぼっちの部屋に崩れ落ちる。いっそあなたのことなんて、キライになってしまいたい。
こんな気持ちにさせる、あなたがキライ。呟いてみても、言葉はただ暗がりに吸い込まれていくだけで、誰の耳にも届かない。
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▲必須お題:「慟哭」「再会」「明日、仕事なんだ」
▲縛り:なし
▲任意お題:「置いてけぼり」「ヒットエンドラン」「能面」(使用できず)
たまには純然たる恋愛モノを書こうと思ったのはいいのだけれど、つくづくへたくそだなあと痛感した一本(涙)
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ふわりと鼻をくすぐるセブンスターのにおい。煙草やめてって頼んだら、わかった、やめるよって頷いたのに、ぜんぜん約束を守る気なんてない、あなたがキライ。だけど、バレてないとか思ってる、あんがい抜けてるところが、ちょっとスキ。
もぞもぞと枕に顔を埋める。肌の上をすべるさらさらのシーツ。あなたのにおいに包まれて、こうしてまどろんでいるときが、人生で一番幸せな時間だって思う。だけどきっと、あなたはそろそろ、あたしの肩に手を置く。ほら、こんなふうに。
「そろそろ起きなよ」
そういって、ぜったいに泊めてくれないあなたがキライ。だけどやさしく肩をゆさぶる、あなたの手はスキ。骨ばった、長い指。意外に整った爪。爪のかたちがきれいねなんて、男のひとにいう誉め言葉じゃないけれど。
「ん、うん。んー」
わざと眠そうな声を出して、シーツにしがみつく。後ろ頭に降ってくる、困ったような気配。眠いのなんて、ただのフリだって、わかってないの? それとも気づかないフリしてるだけなの。
「明日、仕事なんだろ」
そんなふうに、やさしい声でいうあなたがキライ。
「送るし。車の中で寝てなよ」
「ん。うん……」
不承不承、シーツから抜け出すと、エアコンの音がやけに耳につく。いつだって寒すぎず暑すぎないこの部屋。白々として、家具の少なすぎる、生活感のない部屋。
ほんとはあなたひとりのときは、エアコンなんて使わないんだって、ちゃんと知ってる。自分は暑いのはへっちゃらなくせに、あたしがくるときの設定温度はいつも23℃。あたしは、あなたの、そんなところが。
目を擦って、わざとゆっくり服を拾う。あなたは急かさないで、じっと待ってる。困ったように、色の薄い目をちょっと細めて、車のキーを揺らしながら。
なんでそんなに優しいの、って。
一度くらい、正面から訊いてみようか。
だけど答えは、たぶん知ってる。あなたには、あたしとずっと一緒にいるつもりなんてないから。いっときの、短いあいだのことだから、こんなふうにワガママもきいて、イヤな顔ひとつしないで……。
ねえ、そうなんでしょうって、問い詰めたい。でも訊けない。ホントはわかってる、だけど確かめたくない。そんな負け犬根性なあたしがキライ。
車のヘッドライトが、雨に濡れた地面を切り裂いていく。深夜の国道を、ゆっくりと流す。スピードを出さないのは、性格? それとも少しくらいは名残惜しいと思ってくれてるから? 口には出さない問いかけ。これまでいくつの言葉を飲み込んできたのか、もう自分でも、よくわからない。
あたしとずっと一緒にいるつもりなんて、あなたにはきっとない。でも、じゃあ、その理由はなに。仕事のこと? ご両親のこと? 前の恋人を忘れられないから? それとも全部?
すべての質問を喉もとでのみこんで、あなたの横顔をじっと見る。眼鏡の下の、穏やかなまなざし。頬にちょっとだけ残るニキビあと。薄い唇。ときどき振り向いて目の端で笑う、その瞬間に寄る小さなシワ。
ずっと一緒にいられないんだったら、やさしくなんてしないでほしい。ときどき叫びだしたくなる。泣き喚いて、あなたに縋りたくなる。ウソ。やっぱりやさしくしてほしい。せめて一緒にいられるあいだくらいは。
あなたがスキ。あなたがキライ。
ふりまわされるあたしがキライ。
欲望も、執着も、恋情も、孤独も、焦燥も、嫉妬も、慟哭も、劣等感も、自己嫌悪も、なにもかも全部とおりすぎて、漂白されて、キレイに抜け落ちてしまえばいいのに。カミサマの愛みたいに、何もかも許して包み込む、優しくて、穏やかで、誰にも妨げられないかわりに誰のことも妨げない、そんな気持ちで、あなたをスキになれたらいいのに。そうしたらきっと、もっと……。
だけどどうしても願ってしまう、求めてしまう。ずっと一緒にいてほしい。そばを離れないでほしい。こんなふうに平気な顔で、あたしを家まで送ったりしないで、朝まであなたの横にいさせてほしい。明日の約束がほしい。明後日もこの週末も、来週も来月も来年も隣にいるって約束がほしい。たとえば遠く離れても、あなたが幸せだったらそれでいいなんて、そんな風には思えない。
どれだけ思っても、車は確実に信号を過ぎ、交差点を過ぎて、街灯の下で止まる。あなたはゆっくりギアを入れ替え、サイドブレーキを引く。
「送ってくれて、ありがと」
飲み込んだすべての言葉のかわりに、あたしはいう。あなたは微笑んで、何もいわずに頷く。いつもそう。あたしはあなたの口から、次の約束がほしいのに。
「来週は、会える?」
しかたなく、あたしはそう、自分から訊く。あなたの答えは知っているのに、それでも虚しく問いつづける。
「わからない。電話する」
優しい声で、そっけのない返事。いつもそう。あなたは次の約束をしない。再会をほのめかす言葉さえ、口に出そうとはしない。
どうして、って。そう大声で叫びたい。深夜の住宅街なんて、そんなこと関係ない。あなたの胸倉を掴んで、問い詰めたい。
「待ってる」
だけどあたしはただ、小声でそう返す。あなたは小さく頷いて、ウインドウを上げる。そのままあなたはじっと待つ。あたしが家の中に入るのを。
あたしは部屋のドアを閉めて、背中にすべての神経を傾ける。あなたの車のエンジン音が、ゆっくりと遠ざかっていくのを、じっと背中で聞いている。夜に溶け込んで、完全に聞こえなくなるまで。そうしてあたしは、ひとりぼっちの部屋に崩れ落ちる。いっそあなたのことなんて、キライになってしまいたい。
こんな気持ちにさせる、あなたがキライ。呟いてみても、言葉はただ暗がりに吸い込まれていくだけで、誰の耳にも届かない。
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▲必須お題:「慟哭」「再会」「明日、仕事なんだ」
▲縛り:なし
▲任意お題:「置いてけぼり」「ヒットエンドラン」「能面」(使用できず)
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