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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 即興三語小説。ホラー、かな。微グロ注意です。
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 立ち尽くしたままぼんやりと、古い友人の貌を見上げていた。
「きれいね」
 そういって可憐に微笑む執行美弥子は、美しいものが好きだ。
 木目金の指輪、銀細工の食器、純白の骨片。耽美な画風の絵画、陽光のきらめく水辺を写した風景写真。毛並みのつややかな猫、羽を切られた籠の小鳥。およそ美を感じさせるものならば、その興味はどこへでも向くし、何をしてでも手に入れようとする。この部屋にずらりと並んでいる、まさにこれらの品々のように。
 ――みやこはきれいなものが好き。
 そういえば昔からこの子は、いつもそういっていたのだった。花を摘んで髪に挿し、実を潰して幼い唇に紅をさして、水溜りの鏡をうっとりと見つめていた。きれいなもようのビー玉を周りの子どもから奪い、きらびやかな子ども服がウインドウに飾られていては、あれがほしいと親にねだった。そしてそれがかなえられなければ、巧妙な計画を練って、それがみずからの手に入るように、周囲を仕向けたのだった。癇癪を起こすのではなく、確実に手に入れられるように。思えばはじめから、そういう子だったのだ。
「とってもきれい」
 美弥子の美徳は、嫉妬をしないところにあると思う。美しいものの蒐集家であるならば、自分のほしいものを持つ他人を妬み、自分より美しい第三者を憎んでも、何の不思議もないというのに、どういうわけか、美弥子は違う。誰かからそれを奪う為に、その相手を陥れることはあっても、それは彼女が必要としているからやむを得ずすることであって、相手そのものを憎むことは、一度もなかったのだ。そして美弥子は、美しい青年にも、愛らしい少女にも、等しく見蕩れる。そのことがわたしには、いつでも不思議でならなかった。
 窓から茜色の夕日がさし込んで、それが美弥子の可憐な睫毛を輝かせている。窓辺からは、漣の音。ここは海辺の美しい邸宅。彼女の城。
「不思議ね。あなたがこんなに美しくなると知っていたら、もっと昔から、大事にしたのに」
 美弥子は首を傾げて、わたしの顔を覗き込む。彼女のいうように、昔のわたしは醜かった。痩せすぎて骨ばっていたし、顔を見ても男の子にしかみえないような(美少年ではなく、普通にそのへんにいる男の子に)調子だった。だから美弥子はわたしに関心を向けなかったし、ともすれば平気で踏みにじった。
 けれど成長とともに人間の顔立ちは変わる。それがいささか予想をこえたところで、何も不思議なことはない。それが、幸運なのか不運なのかはべつにしても。
「でも、いいわ。ちゃんとつかまえたから」
 わたしはぴくりとも動かずに、美弥子の可愛らしい笑顔を見つめる。もっと邪悪な、魔女の顔に見えてもおかしくはないというのに、どう見ても美弥子は可憐だった。幼い子どもの頃からそうだったように。
 美弥子は愛らしく小首を傾げて、うっとりとわたしの目を覗き込んでいる。そこには何がうつっているだろう。眼球を取り出したあとの眼窩に埋め込まれた、プラスチックの義眼には。
 夕陽に照らし出された、彼女の美しい部屋には、ずらりと美しい剥製が並んでいる。小鳥に虎に蛇、美しい容貌をした少年少女たち。調度品に凭れているもの、壁に半ば埋まったもの、アンティークの椅子に腰をうずめているもの。そのなかではわたしが一番、年かさだろうか。
「もう離さない。ずっと美弥子のそばにいてね」
 美弥子はいとおしむようにそう囁いて、可憐に微笑む。窓から入る光は徐々に弱まり、部屋に宵闇が落ちようとしている。いっときすれば、彼女のお気に入りのガラス工芸品が、射し込む月光をはじいてきらきらと輝くだろう。無言で佇む剥製たちの精巧な義眼とともに。

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お題:「木目金」「茜色」「アンティーク」

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