小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
本題のまえに事務連絡。
「続きを読む」に拍手コメントへのレスがあります。
あと、あしたは忘年会なので、そして十中八九酔いつぶれそうな感じの顔ぶれなので、あしたの更新はありません。飲んできまーす!
----------------------------------------

ニュークリア・エイジ (文春文庫)
……と、いうことで、読了。
穴を掘っていた。大きな穴を。そんなものが核シェルターのかわりになるはずがない。わかっている。けれど、どうして皆、じっとなにもせずにいられるというのだ?
家の中では妻と娘が、狂人を見る目で僕を眺めている。だけど僕は狂ってなんかいない。核ミサイルは現実だ。爆弾は現実だ。戦争は現実だ。穴は囁きかけてくる。掘れよ。掘れ。掘れ! ただそれだけが、土を掘るたしかな手ごたえだけが、僕に安堵をもたらす……。
ジュニア・スクールの頃、あるいはハイスクール時代、あるいは大学のキャンパスで、あるいは徴兵から逃れるために身を隠しながら、僕は空を切って飛んでいくミサイルを、爆発を、死の灰を、キノコ雲を、殺されていく兵士たちを、この目に鮮明に見た。それは幻覚かもしれないけれど、この世界にたしかに実在するものだった。どうしてみんな、怯えずにいられるんだろう?
核の冬、冷戦、そしてベトナム戦争。大量の兵士と兵器がベトナムに送られ、何万人もの人命が遠い国で失われていく、その当時のアメリカ。核の恐ろしさや戦争の凄惨さから、人々が目を背けながら暮らす中、そこから目をそらすことができなかったゆえに狂気に陥った主人公の、息の詰まるような、孤独。
明らかに頭の配線が飛んでしまってるのは主人公のほう。だけど彼と、戦争に、核に、無関心を保ちつづける人々と、本当の狂気はどちらなのだろう……。読みながらふと、何度も胸をよぎる疑問。
繊細すぎて、臆病すぎて、頭がおかしくなったと思われる。人に笑われ、気の毒がられ、あるいは遠巻きにされて、そうするうちに自分でも、心に堅固な壁を築き上げる。うまく人とかかわることができなくなる主人公。思考が狭まり、他人を拒んで、だけど、それでも愛をもとめずにはいられない。彼は欲し続ける。安全な場所を、守ってくれる存在を、そして愛を。自分を守るために築いた壁が、ますます彼を孤立させ、傷つけていく。
そして、長年の希求の果てにようやく手に入れた愛も、やがて彼を裏切る……。
傍から見ると狂人にほかならない。だけど、その彼を突き動かしているのは、ただ恐怖、世界の現実。戦争と核の現実。それから、愛する者が自分のもとを離れていくという、現実。
劇的に変容し戦争に傾いていく世界、暴力の反乱、押し寄せる滅びのイメージ、強迫観念、コンプレックス、恋愛へのおそれ、過剰に膨れ上がる自意識、理解できないことの苦痛、理解されないことの恐怖、拒絶、孤独、かろうじて自分の平衡を保とうとする危うい精神のバランス。読んでいて、とても胸苦しい。
そして、狂ったようにしか見えない父親が、それでも自分のことを愛しているといい続ける父親が、毎日、毎日、庭に延々と穴を掘り続ける。シャベルとダイナマイト。恐怖と愛情の板ばさみになって、それを見まもる娘……。その心を思うと、胸が潰れそうになる。
主人公は間違っている。そう、たしかに色々なことへのアプローチを間違っている。自分の殻に閉じこもり、愛に都合のいい幻を投影し、存在しないものを追い求め、現実から逃げて。だけど、彼をただの狂人だと、自分と縁遠いものだと突き放して読むことが、どうしてもできない。
辛く、やるせなく、後味もいいとはいえません。誰にでも薦めきれる内容ではありません。でも、それでも、声を大にしていいたいです。素晴らしい小説でした。
「続きを読む」に拍手コメントへのレスがあります。
あと、あしたは忘年会なので、そして十中八九酔いつぶれそうな感じの顔ぶれなので、あしたの更新はありません。飲んできまーす!
----------------------------------------

ニュークリア・エイジ (文春文庫)
……と、いうことで、読了。
穴を掘っていた。大きな穴を。そんなものが核シェルターのかわりになるはずがない。わかっている。けれど、どうして皆、じっとなにもせずにいられるというのだ?
家の中では妻と娘が、狂人を見る目で僕を眺めている。だけど僕は狂ってなんかいない。核ミサイルは現実だ。爆弾は現実だ。戦争は現実だ。穴は囁きかけてくる。掘れよ。掘れ。掘れ! ただそれだけが、土を掘るたしかな手ごたえだけが、僕に安堵をもたらす……。
ジュニア・スクールの頃、あるいはハイスクール時代、あるいは大学のキャンパスで、あるいは徴兵から逃れるために身を隠しながら、僕は空を切って飛んでいくミサイルを、爆発を、死の灰を、キノコ雲を、殺されていく兵士たちを、この目に鮮明に見た。それは幻覚かもしれないけれど、この世界にたしかに実在するものだった。どうしてみんな、怯えずにいられるんだろう?
核の冬、冷戦、そしてベトナム戦争。大量の兵士と兵器がベトナムに送られ、何万人もの人命が遠い国で失われていく、その当時のアメリカ。核の恐ろしさや戦争の凄惨さから、人々が目を背けながら暮らす中、そこから目をそらすことができなかったゆえに狂気に陥った主人公の、息の詰まるような、孤独。
明らかに頭の配線が飛んでしまってるのは主人公のほう。だけど彼と、戦争に、核に、無関心を保ちつづける人々と、本当の狂気はどちらなのだろう……。読みながらふと、何度も胸をよぎる疑問。
繊細すぎて、臆病すぎて、頭がおかしくなったと思われる。人に笑われ、気の毒がられ、あるいは遠巻きにされて、そうするうちに自分でも、心に堅固な壁を築き上げる。うまく人とかかわることができなくなる主人公。思考が狭まり、他人を拒んで、だけど、それでも愛をもとめずにはいられない。彼は欲し続ける。安全な場所を、守ってくれる存在を、そして愛を。自分を守るために築いた壁が、ますます彼を孤立させ、傷つけていく。
そして、長年の希求の果てにようやく手に入れた愛も、やがて彼を裏切る……。
傍から見ると狂人にほかならない。だけど、その彼を突き動かしているのは、ただ恐怖、世界の現実。戦争と核の現実。それから、愛する者が自分のもとを離れていくという、現実。
劇的に変容し戦争に傾いていく世界、暴力の反乱、押し寄せる滅びのイメージ、強迫観念、コンプレックス、恋愛へのおそれ、過剰に膨れ上がる自意識、理解できないことの苦痛、理解されないことの恐怖、拒絶、孤独、かろうじて自分の平衡を保とうとする危うい精神のバランス。読んでいて、とても胸苦しい。
そして、狂ったようにしか見えない父親が、それでも自分のことを愛しているといい続ける父親が、毎日、毎日、庭に延々と穴を掘り続ける。シャベルとダイナマイト。恐怖と愛情の板ばさみになって、それを見まもる娘……。その心を思うと、胸が潰れそうになる。
主人公は間違っている。そう、たしかに色々なことへのアプローチを間違っている。自分の殻に閉じこもり、愛に都合のいい幻を投影し、存在しないものを追い求め、現実から逃げて。だけど、彼をただの狂人だと、自分と縁遠いものだと突き放して読むことが、どうしてもできない。
辛く、やるせなく、後味もいいとはいえません。誰にでも薦めきれる内容ではありません。でも、それでも、声を大にしていいたいです。素晴らしい小説でした。
この記事にコメントする
プロフィール
HN:
朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
拍手コメントをいただいた場合は、お名前をださずにブログ記事内で返信させていただいております。もしも返信がご迷惑になる場合は、お手数ですがコメント中に一言書き添えていただければ幸いです。
拍手コメントをいただいた場合は、お名前をださずにブログ記事内で返信させていただいております。もしも返信がご迷惑になる場合は、お手数ですがコメント中に一言書き添えていただければ幸いです。
ブクログ
ラノベ以外の本棚
ラノベ棚
ラノベ棚
フォローお気軽にどうぞ。
リンク
アーカイブ
ブログ内検索
カウンター