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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 先週の、深夜の60分三語の2回目のやつ。
 チャットではしゃいでいたため、テンションはすごい高かったのですが、きっちり脳みそは死んでいたようです。読み返して、びっくりするくらい自分が何を書きたかったのか分からない!(ええー……)

 思い切り駄作ですが、恥をログに流しておきます……orz

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 いかにも贅を凝らしたように見えてしまうと、下品になるからといったのは、彼女のほうだった。
 仕立てあがったばかりのそのスーツは、いくらか地味で古めかしいくらいだったが、それが背筋を伸ばして立っている彼に、よく似合っていた。彼から三歩ほど離れて、そのことを確認すると、年配の仕立て屋は満足そうにうなずいて、恭しくお辞儀をしてみせた。
 彼女はうっとりとため息をついて、それから、ひどく残念そうにいう。
「黙ってさえいれば、真面目な好青年に見えるのに」
 いわれたほうの彼はというと、それが可笑しくてたまらないというように、笑っている。
「失礼な。喋っていようが歩いていようが、おれは真面目な好青年だぞ」
「ああ、そう。ふーん、へえ、まあ、そうなの」
「何かいいたそうだな」
「いいえ、べつに。自分の思いたいように思っていたらいいわ」
 そういう彼女の目も、笑っている。仕立て屋が、持参の道具を片付けて引き上げていくのを横目にみながら、彼は櫛で髪を撫で付けた。
 ハッピーバースデイ、トゥ、ユー。男が外れた調子で上機嫌に歌って、楽しそうに自分の着ている服の袖を、あちこち引っ張っている。
「ちょっと、仕立てたばっかりで破くんじゃないわよ」
「大丈夫だよ、仕立てがいいから、ちょっとやそっとじゃ破けない」
 たぶんね、といって、男は今度はものめずらしそうに、タイの結び目をいじった。
「それにしても、俺の中でお誕生会っていうのは、なんていうかもっとつましくて、控えめで、家庭的で優しそうなお母さんがちょっと見栄を張って料理を用意して、それにまわりの嫉妬がとびかったりして、子ども同士の普段は見えない確執が顕在化するような集まりだと思ってたよ」
「まあ、後半はだいたいあってるんじゃない?」
 彼女はいって、皮肉げに笑った。
 彼はものめずらしそうに自分の格好を見下ろして、ふんふんと、楽しそうに鼻歌を歌う。それがまた、驚くほどオンチだった。
「ねえ。お願いだから、会場で歌わないでね」
「わかったよ。なあ、こういうのも、結婚詐欺っていうのかな」
「言わないんじゃない。コーヒー飲む?」
「飲む」
 手渡されたコーヒーに鼻を寄せると、彼はこれにも興味深そうに目を輝かせて、においをかいだ。
「ちょっと。こぼさないでよ。もう一着仕立てる時間はないんだからね」
「大丈夫。……ううん。普段飲んでいるコーヒーと、同じ飲み物だとは思えないなあ」
 そう、と彼女は気のないそぶりでいって、自分もコーヒーを口に運んだ。カップの値段をいったら、彼がどういう反応をするだろうかと、いくらか憂鬱になりながら。
「でもなんで、ここまでして見栄をはる必要があるんだ? 面白そうだから、良家の子弟のふりをするのも、まあかまわないけどさ」
 無邪気な子どものような口調で、彼はいう。
「なんででしょうね」
 彼女はため息をついた。「まあ、一日だけガマンして頂戴。酔っ払って歌うのも、テーブルに飛び乗って裸踊りをするのも、料理を食べ散らかすのも」
「ビールのらっぱ飲みは?」
「だめ。だめったらだめ。みんな卒倒しちゃうわ。あなたが思う、世界で一番お上品な人のイメージの、その百倍くらいはおとなしくにこにこしてて」
 こうかなと、彼がにっこりと微笑むと、彼女はもうひとつため息を落とした。
「まったく、黙ってればホントに好青年に見えるのに」
「きみって、親孝行だよね。意外と」
「まあね。自分でも意外だわ」
「親父さんのこと、嫌いなんじゃなかったっけ」
「死ぬほど嫌いよ。でも、仕方ないわ」
 あと一年は、もたないらしいから。彼女は小声でいって、カップの底に残ったコーヒーの、黒い水面を覗き込む。そこに映る自分の顔が、揺れるコーヒーに合わせて歪むのを見つめて、彼女は肩を落とした。
 男はそんな彼女を眺めながら、まだにこにこしている。
「ちょっと、なににやにやしてるの。ずっと笑いっぱなしだと、馬鹿みたいよ」
「傷つくなあ」
 男は大仰に胸を抑えて、それからまた、調子っぱずれの歌をうたった。「ハッピーバースデイ、トゥ……」
「やめて頂戴。私の音感まで壊れそう」
 ひどいなと、彼は笑って、仕立てたスーツにしわがよらないように、背もたれから離れて椅子に座った。
「でも、よかったね」と、彼はいう。
「何が? あの父が死ぬことは、そりゃめでたいかもしれないけれど」
「違うよ。きみが、お父さんがまだ生きているうちに、孝行しようと思えたことがだよ。だって、嫌いなんだろう?」
 彼女はぐっと詰まって、彼をにらみつけると、ふいと視線を逸らした。
「大嫌いよ。いつか、この手で階段から突き落としてやろうと思ってたのに」
 このうちの螺旋階段から人が転がり落ちたら、さぞ絵になりそうだねえと、すっとぼけたことをいって、彼は立ち上がった。そのままステップを踏むような足取りで、彼女のすぐ傍に立つ。
 訝しげな彼女の頭を、彼はにこにこしながら、手のひらで何度も撫でた。
「……何よ。髪が乱れるからやめて頂戴」
「うん。いや、えらいなと思って」
 彼女はぽかんと口をあけて絶句すると、一拍おいて、見る間に赤くなった。
「やめてったら。……そろそろいくわよ」
「はい、お嬢様」
 映画の中で英国執事がそうするように、彼はお辞儀をしてみせた。そのおふざけに、彼女はきっとまなじりを吊り上げる。それから、ふと不安そうに、その眉が下がった。
 ねえ、お願いだから、と、彼女はいいかけて、口を噤んだ。
「どうしたの?」
 いけすかない女だって思わないでねと、そういいそうになった唇を引き結んで、彼女はレースの手袋に包んだ手を、彼の腕に伸ばした。
「お願いだから、ちゃんと猫を被っていてよね。今日だけでいいから」
「はいはい、仰せのままに」

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お題:「ハッピーバースデイ」「真面目な好青年」「うっとり」

任意お題:「昼間」

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