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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 読了。

 貞観七年、高丘親王は天竺に渡るため、唐の皇帝に許可を取り付けて、二人の共と連れ立って、船出した。幼い頃から植えつけられた天竺のイメージに誘われ、はるかな地を目指して旅を続ける親王は、行く先々で奇妙な夢にとらわれ、あるいは目覚めているときにも、幾多の不思議な光景にであう。

 ものすごくエキゾチック。幻想というよりも、幻惑的。
 面白かったのは面白かったんだけど、この作品を本当に楽しむためには、私にはいろんな下地が足りないんだろうなという気がします。それが具体的に何かと考えると、悩んでしまうんですけども、人生経験、死生観、性に対する感覚、想像力、歴史知識……うーん。どれともつかないな。ぜんぶかな。

 のめり込めなかった原因のひとつは、語り口になじめなかったことかなあと思います。そういうことで好き嫌いをするのはよくない(というかもったいない)のですが、筆者が筆者であるという顔をして、物語の前面に出てくると、それだけで急に、すっと醒めてしまう性質なのです。
 その物語の語り手が、読者の存在を意識してしゃべっているというのは、べつに平気なんです。一人称の主人公が、読者に話しかけるスタイルというのは、べつに気にならない。あるいは語り手、神でも脇役でも語り部でもいいんですけども、そういう「誰か」が、自分の知っている物語を人に話して聞かせている、というようなスタイルも、ぜんぜん気にならない。
 でもその語り手が「作家」だということがちらりとでも匂うと、なんだかふっと醒めちゃうんです。ただのワガママなんですけど、語り手は、イコール作者であってほしくない。架空の話でもなんでもいいから、少なくとも読んでいる間は、前のめりで騙されたいんですね。いま目の前に広がっている世界は、作者さんが頭の中で考えて書いたものではなくて、そこに本当にある一つの世界、本当にあった(あっている)出来事なのだと、錯覚したまま読みたい。フィクションなんだけど、フィクションということを忘れる勢いでのめりこんで読みたい、作品中に入りこみたいんですよね。

 それができなかった原因のひとつが、語り口であり、あともうひとつが、登場人物に感情移入するとっかかりがあまりなかったことでした。これはまったくもって相性というか、私の持っている人生観の幅の狭さが原因で、本にたいして文句をつけても仕方のない部分なのですが、登場人物の感情に、あまり共感を誘われなかった。男性的なものの考え方だというのも、ひとつの原因かもしれません。私の中にも男性性はあるので、同じように男目線の読み物でも、ものすごく共感できるケースもあるんですけども、今回は、遠くから「ふーん」と眺めているような感じが抜けなくて、のめりこんで読めませんでした。
 このあたりは、歳をとって、自分の世界や考え方がもうちょっと広がってから読みなおせば、また印象が違うのではないかとも思います。また何年かおいてから、もう一度読んでみたいような気がしています。

 あるいは澁澤氏が死を間近にして遺した一作ということで、それを念頭において読めば、作中に描かれる死生観が、また違った意味をもって感じられたのかもしれません。(なるべく小説は先入観を持たずに読みたい派なので、下調べなしで読み、解説でそのことを知りました……)

 ……と、ネガティブなことばかり書いておいてなんなのですが、じゃあつまらなかったかというと、面白かったんです。これだけ個人的にのめりこめない要素があったにもかかわらず、興味深く読めました。
 鳥の下半身をした女、犬の頭をした男、獏。登場する架空の生き物の、奇妙な行動や生態、旅先に広がる光景のもつ豊かなイメージは、それだけでも一読の価値ありです。

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