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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 読了。

 挫折しっぱなしの人生を歩み、妻ひとり娘ひとりをもちながら、家でも肩身が狭い主人公。かつては英語教師だったけれど、そこも退職し、いまは自分で向かないと思いながらもタクシードライバーをしている。接客がひたすら苦手で、面倒な客もうまくあしらえない。タクシーに乗って三年にもなるわりには、道にも詳しくなくて、カーナビもしっかりとは使いこなせず、頻繁にクレームをもらう。そんな自分に自己嫌悪しつつも、変わる勇気も持てない。お人よしで、いいところもたくさん持っているのに、自分ではそういう自分のよさを信じられず、ただ小さく小さくなって、ひたすらにいやなことをやりすごそうとしている。
 そんな主人公だが、ある日一人でひっそりと昼食を食べていた空き地で、土管の中に一匹のでぶ猫を見つける。御子神というネームプレートを身につけた猫は、けれど近くに飼い主がくらしている気配もない。ペット不可のマンションに住んでいて、当然猫を買えるはずもない主人公は、かかわるつもりもなかったのだが、ある日、車の窓を開けていた拍子に、その猫・御子神さんが助手席にちゃっかりもぐりこむ。どうにか追い払おうとしていたところに、急ぎでのせろと迫ってくる客を拒否できず、御子神さんを乗せたまま発車する主人公。
 はじまりはそんな偶発的な事故だったが、すぐに主人公は気づく。御子神さんと一緒なら、少しだけ、乗客とまともに話ができることに。
 猫を乗せての営業なんて、会社が認めるはずがない。ペット不可のマンションで、厳しい倫理観を持っている妻が、隠れて猫を飼うことを許すはずがない。だけど……

 面白かった……癒されました。
 ちょっと展開がきれいすぎる、という印象はあります。もちろん、作品中では嫌なできごともたくさんあります。主人公がいろいろと自分の弱さに負けたり、現実に悩み苦しんだり、困難にぶつかったりする、そこのところはリアルなんだけども、そのひとつひとつが解決に向かってきれいに収束していく前向きな展開には、「うーん、あんまりきれいに解決しすぎじゃないの?」などと、心の汚れたワタシとしては、そんなふうにひねくれたこともつい考えてしまったり。
 けれど同時に、フィクションはそれでいいとも思います。

 現実の人生では、何もかもが自分の考え方ひとつでうまくいくわけではない。もちろん、厭だなあ厭だなあと思っていることを、思いがけず時間が解決してくれたり、考え方ひとつでものごとががらっと違って見えたり、そういう小さな奇跡はいっぱいあります。けれど、何もかもがそういうふうに美しくはいきません。
 でも、だからこそ、フィクションの中では美しく感動的に話が収まるのも、いいと思う。そんなことを思いました。

 人の弱さや情けなさが、とてもいとおしく思えてくる。そんな一冊です。
 あと猫の癒しパワーは偉大。

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