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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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 即興三語小説。かなりしょうもない感じです。

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「悠介、ユースケ!! 分かったぞ!」
 名前を連呼されて何気なく振り向くと、風呂場から、素っ裸でびしょぬれの歩が、いきおいよく飛び出してきたところだった。思わず口に含んでいた綾鷹を吹き出しそうになって、ひどく噎せる。
「お前はアルキメデスか?」
「誰だそれ。それより聞いてくれ、大発見なんだ」
「いいから身体を拭け、さっさと服を着ろ、見苦しいもん見せるな」
「なんだよ。男同士、何を恥ずかしがることがある」
 胸を張ってそんなことを言う端から、水がぼとぼとと滴って、フローリングを濡らしていく。ただでさえ、昨日こいつと飲み明かしたせいで、ビールの空き缶やら焼酎の紙パックやらピザの空箱やら、足の踏み場もなかった。ああ、この掃除、誰がやるんだ。俺か。俺なのか。
「いいから床をぬらすな。……恥ずかしくはないが、野郎の裸なんか見なくてすむなら、なるべく見たくない」
 言いながら、雑巾を探して立ち上がる。が、適当なものがない。床の掃除が行き届いていないので、まだ使えるタオルをつぶすのはもったいない。どこかに古Tシャツがなかったか。
「なるほど。そういうことなら、オレはさっさと着替えるから、おまえはそのあいだに買い物だ」
「は? 何が何だって」
 床を拭きながら思わず聞き返すと、歩は理解の遅い相手にあきれ返った表情になって、さも当然のごとく言い放った。
「台風が来るから、その前に食料品の買出しに行けといっているんだ。みたらし団子を忘れるな」


「……で、何が発見だったんだって」
 ため息を吐きながら、スーパーのレジ袋を置き、あらためて床を拭くものを探す。しかも、スーパーにはみたらし団子がなかったので、少し歩いて近所の和菓子屋にまで行ってきた。
 帰ってきたとき、歩は服だけはかろうじて着込んでいたが、一度は拭いていった床は、また濡れていた。頭もよく拭かないまま、うろうろしていたのだろう。
 まったく、いくら久しぶりに遊びに来たからといって、こんなやつ、泊めるんじゃなかった。腹は立つが、こいつに拭かせる労力を考えれば、自分が拭くほうがまだいくらかましそうだ。
「ああ、オレの前髪のな、この部分」
 と、歩は自分の前髪を指で摘んだ。まだ半がわきの髪は、ツンツンと跳ねている。
「ここだけがつむじの流れに逆らって、いつもおさまりが悪いんだが、年に数度、特に秋ごろにだな、これがひどくピンと跳ねて、水で濡らしてもどうにもならなくなる日があるんだ。普段はそんなことないのにな。何でだろうと、ずっと不思議に思っていたのだが、やっと気付いた。台風が近づいてくると、かならずこの前髪が跳ねるということに」
「……風呂に漬かりすぎて、脳ミソがゆだったか?」
 思わず胡乱な目で、その跳ねた前髪をじろじろと見てしまった。たしかに外は風がやや強かったが、それにしても台風が来ると髪が跳ねる? そんな便利なセンサーがあるものか。
「信じられないという顔をしているな。だが、いま経験に照らし合わせてみれば、この的中率はすごいぞ。気象衛星なんていう旧時代の遺物なんか、目じゃない」
「何が旧時代だ。現役ばりばりじゃないか」
「打ち上げられたのは前世紀だろう」
 そうなのか? もしかしたらそうかもしれないが、その後もどんどん改良されているんじゃないのか。即座にツッコむには、自分の知識に自信がなく、一瞬考えている間に、歩はさっさと話をすすめた。
「お前、この数日、ニュースは見たか」
「……いや、そういえばこのところ、テレビをつけてないな。ゲームはしてたけど」
 嫌な予感がしながら、リモコンを操作すると、数秒のタイムラグのあとに画面が明るくなって、台風中継の様子が映し出された。レインコートのレポーターが声を張り上げ、折れた街路樹を指差している。
 ――画面が切り替わる。台風九号はゆっくりと北上しており、今日の午後には関東方面へと……
「……」
 振り返ると、歩はみたらし団子を口に詰め込んで、にやりとした。「いまはらかへっはら、ほうろまひほまれほうら」
「……飲み込んでから言え」
「今から帰ったら、ちょうど巻き込まれそうだ。悪いが今日も泊めてくれ」


 徐々に、風が強くなってきた。がたがたと窓が揺れる。この部屋には雨戸がない。大丈夫だろうか。
 自分でもみたらし団子を一本確保し、やけのような気持ちでかじりつく。言われたとおり、大量に買ってきていたはずが、いつの間にかすでに三パックほどの空が散乱していた。まさかとは思うが、なくなったら今度は、嵐の中を買いに行けとはいわないだろうな。
「お前、食いすぎだ。他のものは普通の量しか食わないくせに、みたらし団子の何がお前をそう駆り立てるんだ」
「何もかもが。オレの身体の八十パーセントは水分だが、他の二十パーセントはみたらし団子で出来ている……!」
「いや、他のものも食えよ」
「このみたらし団子、よく見ろ。この五つの団子のうち、一番上の団子だけが、一回り大きいだろう。なんでか知ってるか」
 歩は団子を指差して、得意げに聞いてきた。俺の突っ込みはガン無視だった。しかも、こちらの返事を待たずにさっさと解説を始める。
「この五つの団子はな、人間の体になぞらえてあるという説があるんだ。一番上が頭で、残りの四つが手足というわけだ」
 そう指差して説明しながら、嬉しそうにがぶりとかじりつく。うっ……生々しい想像をしてしまった。思わず自分の歯形のついた、一番上の団子を見つめてしまう。
「食べづらくなるから、やめろ」
「なんだ、お前、たい焼きとかクリスマスケーキの上のサンタクロースとか、考えすぎて食えないクチか」
「うるさいな。それより、来るならなんで明日来ないんだ、この台風は」
 ゲーム機の電源を入れながら、ちらりと窓の外を見る。空はどんよりと暗い。
「明日だったら、お前は仕事じゃないか」
「休むよ、電車が止まれば」
「なんだ情けない。そんなことでいいのか、社会人だろう」
「電車で一時間半かかるところに、歩いて行けってか」
「行け、お前ならやれる、そして会社のヒーローになれ!」
「台風のときに出勤する奴は、ちゃんと決まってるんだよ。お前は、明日は講義じゃないのか。朝からこっちを出たら、間に合わないだろう」
「普段がまじめだからな。一日くらい行かなくても、単位は充分だ」
「そうかよ」
 どう真面目なのかよく想像がつかないが、本人がいいというんだからいいんだろう。大学生ってのはいい身分だなあ。……なんて言ったら、学業にいそしんでいる真面目な大学生に怒られるかもしれないが。
 ゲームのロードを待つ間、もう一本食べようと、みたらし団子に手を伸ばしかけたところで、ぎょっとして目を剥いた。ない。
「食べたのか? あれ全部?」
 ゴミ箱に目を向けると、食べ終わったパックの山。ああもう、全部ごっちゃに詰め込みやがって。こっちは地元とはゴミの分別が違うんだっていうのに。
「食べたとも。これでお前も、オレの好物を忘れないだろう。何かあったら、差し入れはみたらし団子にしてくれ」
「そのうちお前、しょうゆ色になるんじゃないのか。……まあ、それだけ食ったんなら、お前、今日の晩飯はいらないよな」
 買いこんできた食料品に目を走らせながら言うと、歩は目を丸くした。
「馬鹿をいうな。別腹という言葉を知らないのか」
「使い方が違わないか?」
 あれは満腹でも好物なら食えるという意味じゃないのか。けれど、そのツッコミはやはりさっくりと流された。
「ところで、今回オレが何をしに来たというかとだな」
「みたらし団子を食いにきたんじゃないのか」
「じつは四月から、こっちの会社に内定が決まったんだ」
 またガン無視された。いらっとしながら、話が進まないので、とりあえず祝福することにする。
「へえ。おめでとう。じゃあ、昨日今日は、部屋の下見だったのか?」
「そうなんだ。おかげでいい部屋も確保できそうだし」
 何となく、その言い方にひっかかって、聞き流せなかった。一瞬黙ったあと、恐る恐る、念を押すように聞く。
「へえ。もう契約してきたのか? どの辺に住むんだ」
 その言葉には、含みをもたせて聞いたつもりだったが、歩はもちろん空気を読まなかった。にっこり笑って、ひとさし指を下に向けた。
「なんだ、このアパートに部屋を借りたのか」
 そう言いながら、頬がひきつった。それでも、歩は全く気にする風もなく、いい笑顔で首を横に振った。
「下宿させてくれ。金が溜まるまででいいから」
「断る」
 即答するが、やはりさっぱり無視された。「いやあ、ワンルームの小汚い部屋だったらどうしようかと思ったが、思ったよりいい部屋に住んでたから、助かったなあ。それに、お前、あっちの部屋ぜんぜん使ってないだろ」そういって歩は、物置になっている和室を指差した。「あそこでいいから、貸してくれ」
 確かにその部屋はいま、使っていない。だが、スペースの問題ではない。歩は絶対、自分で自分の世話をするようなタイプではない。
「そうだな、最初のボーナスが出たあとは、すぐ部屋を探して出る。それまでの間だけでいいんだ」
 にこやかに言われたが、必死で何度も首を横に振った。それくらいならと妥協すれば、そのままずるずる居座るような奴だ。だが、必死の否定も、完全に流された。
「それに、うまいみたらし団子の置いてある店も、近くにあるようだしなあ。いやあ、こんなに好条件だとは思わなかった」
「人の話を聞け!」
 ほとんど絶叫したが、歩に堪えた様子はなく、隣の部屋の住人が、うるさいと壁を蹴ってきただけだった。


「じゃ、三月下旬になったら、荷物も持ってくるから。よろしくな」
「俺はひと言も同意してないぞ」
「まあまあ」
 歩はまったく悪びれず、手を振って狭いアパートの階段を下りていく。まあまあじゃないぞ……
 歩は途中でいきなり立ち止まって、振り返った。
「そうだ、お前、騙されやすいのは何とかしたほうがいいぞ。ちょっと押しに弱すぎる」
「お前が言うな。だいたい誰が部屋を貸すと言った!」
「そっちの話じゃなくて」
 歩はにやっとして、自分の跳ねた前髪を指で弾いた。
「こんなものが台風レーダーなわけないじゃないか。あれは単に、お前をおちょくろうと思っただけだ。風呂に入る前に携帯の天気予報を見たからな」
 オレだって、アルキメデスくらい知ってるさと、歩は笑って、手をびしっと挙げた。
「それじゃあ、また三月にな」
「二度と来るな!」
 はっはっは、という朗らかな笑い声が、階段に反響しながら遠ざかっていく。台風はとりあえず去っていったが、
「三月から……」
 ただもうひたすら疲れきって、がっくりとドアにもたれた。

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必須お題:「みたらし団子」「旧時代の遺物」「アルキメデス」

任意お題:「星の導きのもと」「台風」「流星群」「裸電球」「オフィスラブ」(ほぼ使用できず)

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