小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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某所の即興三語イベントに投稿したもの。
内容が色々とアレなのはお題のせいおかげです! たぶん!
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「千住の下町、廃材を重ねるようにして作られた町並みに馴染むようにして立てられた基督教の教会の前、その狭い道のかさなりあう場所を待ち合わせにして律子と修司とは逢瀬を重ねていた。
修司の姿を認めた律子の薔薇色の頬がかすかに上気して、そっと躊躇いがちに口元が緩む。その魂の内なる輝きがにじみ出るかのような繊細で眩しい微笑を、まっすぐ直視することもできずに、修司はただ視線を逸らした。母親になる女と言うのは誰でもこういう顔をするものなのだろうか。
いつかは死ぬの死なないのと騒ぎたてていた律子であるが修司にその頭をなでられ優しいことばをかけられるとコロリと機嫌をなおして別に修司の子供を産んでもいい気がしたのだまだ若い学生の身空だというのに――」
「だあ、ちょっと待って、待って!」
悲鳴を上げて、カンナは手を振り回した。「早い早い、無理、口述筆記とか超無理!」
ヨシはそんな妹を見下ろして、ため息をひとつ。
「なんだ情けない、締め切りがあるんだぞ。だいたい、お前が俺のパソコンを壊すからだな」
カンナはぐっと詰まった。彼女が直接の破壊行為に及んだというわけではなかったが、ちょっと兄が休憩している隙にゲームをやろうとパソコンを借りたら、どういうわけかディスプレイがそのまま煙を吹いて、あわれ兄の愛機は修理工場に里帰りすることとあいなったのだった。
「だからって、ヨシ兄いは手を怪我したわけじゃないんだから、自分の手で書いたらいいじゃない!」
「俺はキーボードなら一分に二百文字くらい軽くタイピングできるが、ペンで書くというのは全く駄目なんだ、小学生より遅い」
「あたしだって大差ないよ!」
「現役の学生のほうがいくらかましなはずだ」
「そうだ、携帯! 携帯で打ったら?」
「俺はメールはせん。手で書くよりなお遅い」
「携帯にボイスレコーダーついてるじゃん、録音して編集部に送りつけたら?」
「それだと漢字とか、『――』や『……』の具合だとかがうまく表現できないじゃないか。その点、お前が目の前で書いていれば、逐一指摘できる」
カンナはがっくりと項垂れて、低く唸った。
「……修理って、何日かかるんだっけ」
「三日はかかると言われたな。遺憾ながら、締め切りに間に合うリミットは、あさっての昼だ」
言い切って、ヨシは真顔で妹を促した。
外は気付けば夕暮れどきに差し掛かっている。もうかれこれ何時間、こうやって長編小説の口述筆記に挑んでいるのだろうと、カンナは遠い目になった。窓の外からはカラスの鳴き声と、下校中の子ども達の笑い声が響いている。それに混じる、テノールの歌声。歌声?
「なんか、変な歌が聞こえてこない?」
カンナは眉を寄せて訊いたが、ヨシは首を振った。
「そんなものはどうでもいい、さっさと続きを書くぞ」
「手がだるい……あたらしいパソコン、買ってよ」
「そんな金がどこにある」
「じゃあ、誰かのパソコンを借りるとかさ」
「あのな、データというのは消しても一度記録したら、復元できるんだ。おまえ、それで俺の作品が盗作でもされてみろ」
「だれがこんなヘボ小説、盗作なんてするのさ」
「何か言ったか?」
「言ってませーん」
言い合う間にも、先ほどの歌声が近づいて来た気がして、カンナは首をかしげた。窓の外を見るが、ここはマンションの四階、目に付く所に誰がいるでもない。あるいは、隣近所の家の誰かかもしれないが……
「さあ、もうひと息だ、頑張れカンナ、俺達の生活はお前のその両手にかかっている!」
「なんでちょっとイイ話ふうにしたの。ええい、もう、頑張るよ、頑張りますよ……って、きゃああああ!」
がしゃーんと、激しい音を立てて、ガラスが外から突き破られた。カンナは悲鳴をあげて飛びのき、ヨシは目を丸くして窓から飛び込んできたアフロ男を見つめた。
「やや、これは失礼、怪我はないかなお嬢さん」
奇天烈な格好だった。ピンクから藤色のなんともポップなグラデーションのアフロはどでかく、三角のサングラスがきらりと輝き、羽織ったマントは眩しいような赤、その中に白抜きの星が散っていた。
「……どちらさまで?」
啞然としたまま、ヨシが訊ねた。謎の男はよくぞきいてくれたというふうに、胸を張ってマントを翻らせた。
「やあ、私の名はハッピーアフロ。困っている市民の力になるのが私の使命さ! 何か困っている人の気配を嗅ぎつけて、こうして参上した次第だ!」
その無駄な美声は、先ほど窓の外から聞こえてきていたテノールだった。
へんしつしゃ、とカンナは呟いたが、アフロ男は気にするそぶりもない。それにしてもどうやって、四階のこの部屋に飛び込んできたというのだろうか。
「困っている人を……」
ヨシはこのおかしな状況も忘れたかのように、きらりと目を輝かせた。その言葉にはっとしたカンナは、兄を遮って、絶叫した。「そういうことなら、パソコンをください!」
「それは無理だ!」
アフロは即答した。カンナはずるっと滑りながら、半眼で突っ込んだ。
「何でよ」
「ない袖はふれない! 正義のヒーローは、私財を持たないものだ!」
サングラスを光らせて胸を張ったアフロに、兄弟は冷たい視線を向けた。
「うわ、使えねえ」
「じゃあ、何が出来るんですか」
聞かれてアフロは首をかしげた。
「そうだなあ……ルービックキューブとか。あ、そうそう、釣りなら得意だぞ! このアフロを川面に漬ければ、面白いくらいに魚が寄ってくる」
「帰ってください」「その前に、ガラス代は置いてって」
きれいなハーモニーを奏でた兄妹の言に、アフロは慌てて両手を振った。
「待て待て、気の短い若者たちだな! あとはそう、私は悪の手先、『悲しみちょび髭』を倒すことができる! この右腕からほとばしる虹色のアフロビームを浴びれば、やつの体はきらきらと輝く水晶に変わるのだ!」
「ツッコんだほうがいいんですか?」
「ああ、そんなふうに憐れみの目で見ないでくれ! うっかり気持ちよくなったら困るじゃないか!」
ドン引きしているカンナに気付きもしないで、アフロは身をくねらせている。
「それに、君たちは『悲しみちょび髭』を甘く見ている。やつにとりつかれた人間は、例外なく不幸な目に会うのだ」
「不幸な目に……?」
ヨシが聞き返すと、アフロは満足げにうんうんと頷いて、指をびしっと立てた。
「ネタ帳が燃えたりとか、ネームやプロットをド忘れしたりとか、完成間近のマンガにインクがべったり零れたりとか、書きかけの原稿が入ったパソコンが壊れたりとか」
「なんかそいつ、作家とかマンガ家とかに恨みでもあるんですか」
ぞっとしたような表情で、ヨシが自分の腕を抱く。それからヨシははっとして、「まさか……!」とおののいた。
「そう、パソコンを買って欲しいという君は、きっと若手作家なのだね! ならばきっと、今回の災いは、悲しみちょび髭に由来しているはずだ!」
ヨシはしばらく呆然としていたが、何かを思い決めるようにひとつ唾を飲み込んで、アフロをまっすぐに見つめた。
「あなたは、そいつを倒せるといいましたね」
アフロは満足げに頷くと、ぐっと胸の前で拳をにぎりしめた。
「言ったとも。やつとの戦いは、もう何年も続いている。わたしもいい加減、はっきりした決着をつけたいのだ」
アフロは感極まったように天井を仰ぎ、カラフルなアフロヘアーをゆさゆさと揺らした。
「そう、あれは昨夜のことだった。ようやく周到な罠を仕掛けたあげくに奴を捕まえて、こんどこそ私のアフロビームで奴を水晶に代え、封じ込めてしまえると、わたしは喜びに打ち震えていた」
アフロは急に目を伏せ、何を思い出したのか、悔しさに身を震わせた。
「けれど、そう、なんせ連日の戦いの果てのことだ。空腹のあまり、あのとき、わたしは充分なアフロビームを出すことができなかった。それでしかたなく、チキンラーメンを作って食べるまでの間、縛っていた奴から目を離してしまったのだ……! ああ、あのとき卵がうまく半熟に固まるかどうかに、あれほど気をとられていなければ!」
「……おい」
身振りつきで熱弁をふるうアフロ男の前で、ヨシがゆらりと立ち上がった。気のせいか、兄の背後に暗黒闘気のようなものが揺れた気がして、カンナは思わず後退った。
「つまり、お前のせいで俺のパソコンが壊れたというわけかァァア!!」
「ひい! ごめんなさい、悪気はなかったんです!」
テノールの絶叫が、夕暮れの町に長々と響いた。
結局、一日がかりで悲しみちょび髭は捕獲された。アフロの発射した謎の怪光線で水晶に変えられたそれは、なんというか、奇妙な形のシルクハットに蝶ネクタイ、結婚式の司会者のようなきらきらのスパンコールつきの背広にとがった悪魔の尻尾と翼、そして絶妙に不幸臭漂うチョビ髭をつけた、不細工なおっさんの姿をしていた。その見た目のうさんくささのおかげで、水晶像に変わった悲しみちょび髭を売っぱらってパソコン代に当てようというヨシの目論見はみごと外れ、結局はカンナが口述筆記で地道に、原稿用紙およそ五十枚に及ぶ恋愛小説の連載の第二回分原稿を、どうにか書き上げたのだった。
最初にきつく申し渡されていた締め切りには間に合わなかったが、ヨシは担当編集に土下座し、担当編集は印刷所に土下座して、結果としてどうにかリミットを一日伸ばしてもらうことに成功した。あれから数日、今はパソコンとガラスの修理代に当てるべく、ハッピーアフロが土木工事の深夜バイトに励んでいる。それが終われば、兄妹の生活はすっかり前の通りになるだろう。町にはようやく、平和が戻ろうとしていた。
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必須お題:「水晶に変わる」「内なる輝き」「死ぬの死なないのと騒ぎたてていた律子であるが修司にその頭をなでられ優しいことばをかけられるとコロリと機嫌をなおして別に修司の子供を産んでもいい気がしたのだまだ若い学生の身空だというのに」
縛り:「歌を歌うシーンを入れる(アーティストがいる場合は、作品外に明記をお願いします)」「タイトルを【ハッピーアフロと悲しみちょび髭】に統一する」「硝子の割れる描写を入れる」
任意お題:「白秋」「ヒーローになりたかったんだ」「親父がチョモランマの山頂に落とし穴を掘りに行くと言い残し、家出したあの日」「石ころでも入れておけ」「千住の下町、廃材を重ねるようにして作られた町並みに馴染むようにして立てられた基督教の教会の前、その狭い道のかさなりあう場所を待ち合わせにして律子と修司とは逢瀬を重ねていた」(ほぼ使えず)
内容が色々とアレなのはお題の
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「千住の下町、廃材を重ねるようにして作られた町並みに馴染むようにして立てられた基督教の教会の前、その狭い道のかさなりあう場所を待ち合わせにして律子と修司とは逢瀬を重ねていた。
修司の姿を認めた律子の薔薇色の頬がかすかに上気して、そっと躊躇いがちに口元が緩む。その魂の内なる輝きがにじみ出るかのような繊細で眩しい微笑を、まっすぐ直視することもできずに、修司はただ視線を逸らした。母親になる女と言うのは誰でもこういう顔をするものなのだろうか。
いつかは死ぬの死なないのと騒ぎたてていた律子であるが修司にその頭をなでられ優しいことばをかけられるとコロリと機嫌をなおして別に修司の子供を産んでもいい気がしたのだまだ若い学生の身空だというのに――」
「だあ、ちょっと待って、待って!」
悲鳴を上げて、カンナは手を振り回した。「早い早い、無理、口述筆記とか超無理!」
ヨシはそんな妹を見下ろして、ため息をひとつ。
「なんだ情けない、締め切りがあるんだぞ。だいたい、お前が俺のパソコンを壊すからだな」
カンナはぐっと詰まった。彼女が直接の破壊行為に及んだというわけではなかったが、ちょっと兄が休憩している隙にゲームをやろうとパソコンを借りたら、どういうわけかディスプレイがそのまま煙を吹いて、あわれ兄の愛機は修理工場に里帰りすることとあいなったのだった。
「だからって、ヨシ兄いは手を怪我したわけじゃないんだから、自分の手で書いたらいいじゃない!」
「俺はキーボードなら一分に二百文字くらい軽くタイピングできるが、ペンで書くというのは全く駄目なんだ、小学生より遅い」
「あたしだって大差ないよ!」
「現役の学生のほうがいくらかましなはずだ」
「そうだ、携帯! 携帯で打ったら?」
「俺はメールはせん。手で書くよりなお遅い」
「携帯にボイスレコーダーついてるじゃん、録音して編集部に送りつけたら?」
「それだと漢字とか、『――』や『……』の具合だとかがうまく表現できないじゃないか。その点、お前が目の前で書いていれば、逐一指摘できる」
カンナはがっくりと項垂れて、低く唸った。
「……修理って、何日かかるんだっけ」
「三日はかかると言われたな。遺憾ながら、締め切りに間に合うリミットは、あさっての昼だ」
言い切って、ヨシは真顔で妹を促した。
外は気付けば夕暮れどきに差し掛かっている。もうかれこれ何時間、こうやって長編小説の口述筆記に挑んでいるのだろうと、カンナは遠い目になった。窓の外からはカラスの鳴き声と、下校中の子ども達の笑い声が響いている。それに混じる、テノールの歌声。歌声?
「なんか、変な歌が聞こえてこない?」
カンナは眉を寄せて訊いたが、ヨシは首を振った。
「そんなものはどうでもいい、さっさと続きを書くぞ」
「手がだるい……あたらしいパソコン、買ってよ」
「そんな金がどこにある」
「じゃあ、誰かのパソコンを借りるとかさ」
「あのな、データというのは消しても一度記録したら、復元できるんだ。おまえ、それで俺の作品が盗作でもされてみろ」
「だれがこんなヘボ小説、盗作なんてするのさ」
「何か言ったか?」
「言ってませーん」
言い合う間にも、先ほどの歌声が近づいて来た気がして、カンナは首をかしげた。窓の外を見るが、ここはマンションの四階、目に付く所に誰がいるでもない。あるいは、隣近所の家の誰かかもしれないが……
「さあ、もうひと息だ、頑張れカンナ、俺達の生活はお前のその両手にかかっている!」
「なんでちょっとイイ話ふうにしたの。ええい、もう、頑張るよ、頑張りますよ……って、きゃああああ!」
がしゃーんと、激しい音を立てて、ガラスが外から突き破られた。カンナは悲鳴をあげて飛びのき、ヨシは目を丸くして窓から飛び込んできたアフロ男を見つめた。
「やや、これは失礼、怪我はないかなお嬢さん」
奇天烈な格好だった。ピンクから藤色のなんともポップなグラデーションのアフロはどでかく、三角のサングラスがきらりと輝き、羽織ったマントは眩しいような赤、その中に白抜きの星が散っていた。
「……どちらさまで?」
啞然としたまま、ヨシが訊ねた。謎の男はよくぞきいてくれたというふうに、胸を張ってマントを翻らせた。
「やあ、私の名はハッピーアフロ。困っている市民の力になるのが私の使命さ! 何か困っている人の気配を嗅ぎつけて、こうして参上した次第だ!」
その無駄な美声は、先ほど窓の外から聞こえてきていたテノールだった。
へんしつしゃ、とカンナは呟いたが、アフロ男は気にするそぶりもない。それにしてもどうやって、四階のこの部屋に飛び込んできたというのだろうか。
「困っている人を……」
ヨシはこのおかしな状況も忘れたかのように、きらりと目を輝かせた。その言葉にはっとしたカンナは、兄を遮って、絶叫した。「そういうことなら、パソコンをください!」
「それは無理だ!」
アフロは即答した。カンナはずるっと滑りながら、半眼で突っ込んだ。
「何でよ」
「ない袖はふれない! 正義のヒーローは、私財を持たないものだ!」
サングラスを光らせて胸を張ったアフロに、兄弟は冷たい視線を向けた。
「うわ、使えねえ」
「じゃあ、何が出来るんですか」
聞かれてアフロは首をかしげた。
「そうだなあ……ルービックキューブとか。あ、そうそう、釣りなら得意だぞ! このアフロを川面に漬ければ、面白いくらいに魚が寄ってくる」
「帰ってください」「その前に、ガラス代は置いてって」
きれいなハーモニーを奏でた兄妹の言に、アフロは慌てて両手を振った。
「待て待て、気の短い若者たちだな! あとはそう、私は悪の手先、『悲しみちょび髭』を倒すことができる! この右腕からほとばしる虹色のアフロビームを浴びれば、やつの体はきらきらと輝く水晶に変わるのだ!」
「ツッコんだほうがいいんですか?」
「ああ、そんなふうに憐れみの目で見ないでくれ! うっかり気持ちよくなったら困るじゃないか!」
ドン引きしているカンナに気付きもしないで、アフロは身をくねらせている。
「それに、君たちは『悲しみちょび髭』を甘く見ている。やつにとりつかれた人間は、例外なく不幸な目に会うのだ」
「不幸な目に……?」
ヨシが聞き返すと、アフロは満足げにうんうんと頷いて、指をびしっと立てた。
「ネタ帳が燃えたりとか、ネームやプロットをド忘れしたりとか、完成間近のマンガにインクがべったり零れたりとか、書きかけの原稿が入ったパソコンが壊れたりとか」
「なんかそいつ、作家とかマンガ家とかに恨みでもあるんですか」
ぞっとしたような表情で、ヨシが自分の腕を抱く。それからヨシははっとして、「まさか……!」とおののいた。
「そう、パソコンを買って欲しいという君は、きっと若手作家なのだね! ならばきっと、今回の災いは、悲しみちょび髭に由来しているはずだ!」
ヨシはしばらく呆然としていたが、何かを思い決めるようにひとつ唾を飲み込んで、アフロをまっすぐに見つめた。
「あなたは、そいつを倒せるといいましたね」
アフロは満足げに頷くと、ぐっと胸の前で拳をにぎりしめた。
「言ったとも。やつとの戦いは、もう何年も続いている。わたしもいい加減、はっきりした決着をつけたいのだ」
アフロは感極まったように天井を仰ぎ、カラフルなアフロヘアーをゆさゆさと揺らした。
「そう、あれは昨夜のことだった。ようやく周到な罠を仕掛けたあげくに奴を捕まえて、こんどこそ私のアフロビームで奴を水晶に代え、封じ込めてしまえると、わたしは喜びに打ち震えていた」
アフロは急に目を伏せ、何を思い出したのか、悔しさに身を震わせた。
「けれど、そう、なんせ連日の戦いの果てのことだ。空腹のあまり、あのとき、わたしは充分なアフロビームを出すことができなかった。それでしかたなく、チキンラーメンを作って食べるまでの間、縛っていた奴から目を離してしまったのだ……! ああ、あのとき卵がうまく半熟に固まるかどうかに、あれほど気をとられていなければ!」
「……おい」
身振りつきで熱弁をふるうアフロ男の前で、ヨシがゆらりと立ち上がった。気のせいか、兄の背後に暗黒闘気のようなものが揺れた気がして、カンナは思わず後退った。
「つまり、お前のせいで俺のパソコンが壊れたというわけかァァア!!」
「ひい! ごめんなさい、悪気はなかったんです!」
テノールの絶叫が、夕暮れの町に長々と響いた。
結局、一日がかりで悲しみちょび髭は捕獲された。アフロの発射した謎の怪光線で水晶に変えられたそれは、なんというか、奇妙な形のシルクハットに蝶ネクタイ、結婚式の司会者のようなきらきらのスパンコールつきの背広にとがった悪魔の尻尾と翼、そして絶妙に不幸臭漂うチョビ髭をつけた、不細工なおっさんの姿をしていた。その見た目のうさんくささのおかげで、水晶像に変わった悲しみちょび髭を売っぱらってパソコン代に当てようというヨシの目論見はみごと外れ、結局はカンナが口述筆記で地道に、原稿用紙およそ五十枚に及ぶ恋愛小説の連載の第二回分原稿を、どうにか書き上げたのだった。
最初にきつく申し渡されていた締め切りには間に合わなかったが、ヨシは担当編集に土下座し、担当編集は印刷所に土下座して、結果としてどうにかリミットを一日伸ばしてもらうことに成功した。あれから数日、今はパソコンとガラスの修理代に当てるべく、ハッピーアフロが土木工事の深夜バイトに励んでいる。それが終われば、兄妹の生活はすっかり前の通りになるだろう。町にはようやく、平和が戻ろうとしていた。
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必須お題:「水晶に変わる」「内なる輝き」「死ぬの死なないのと騒ぎたてていた律子であるが修司にその頭をなでられ優しいことばをかけられるとコロリと機嫌をなおして別に修司の子供を産んでもいい気がしたのだまだ若い学生の身空だというのに」
縛り:「歌を歌うシーンを入れる(アーティストがいる場合は、作品外に明記をお願いします)」「タイトルを【ハッピーアフロと悲しみちょび髭】に統一する」「硝子の割れる描写を入れる」
任意お題:「白秋」「ヒーローになりたかったんだ」「親父がチョモランマの山頂に落とし穴を掘りに行くと言い残し、家出したあの日」「石ころでも入れておけ」「千住の下町、廃材を重ねるようにして作られた町並みに馴染むようにして立てられた基督教の教会の前、その狭い道のかさなりあう場所を待ち合わせにして律子と修司とは逢瀬を重ねていた」(ほぼ使えず)
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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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