小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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年末の大そうじもむなしく、たった三ヶ月であっという間に散らかってしまった。
亮子は部室を見渡して、立ち尽くした。乱雑に積まれたマンガ、DVD、脱ぎ捨てたジャージにダンベル(運動部でもないのに何故こんなものが転がっているのだろう?)、得体の知れないガラクタ。皆、何のつもりで文芸部に所属しているのだろう。誰かの小説の原稿だの、データの入ったフロッピーだのもあることにはあるが、用途不明のガラクタの方がずっと多い。
亮子はため息をついた。副部長の肩書きながら、最近は家の手伝いに追われてあまり顔を出していなかった。じきに三年生が卒業するということで、部室で送別会をという話が出たため、準備に来てみると、この始末。送別会は明日だというのに。おまけに送別会を発案した部長の美緒は、まだ姿を見せる気配が無い。
こうしていても仕方がないと、亮子は鞄を置いて腕まくりをした。すっぱい匂いを漂わせるジャージを指先でつまみ、折り良く持っていた紙袋へ。マンガやDVDを集めて、段ボール箱に突っ込む。片っ端から詰めていると、蓋が緩んでいたのかDVDケースが開き、ちらりと見えた中身に亮子は眉を顰めた。まったく、文芸部を何だと思っているのだろう。
「ごめん! HRが長引いてさ」
美緒が駆け込んできた頃には、亮子は我を忘れて一心に床のインク染みを拭いていた。何か始めると没頭する癖がある。
「私なんでこんなことしてるんだろう……」
思わずそう呟いた亮子に、美緒が目を輝かせて拳を握った。
「そういう積み重ねが大事なの。そしていつか清掃業界の星になるのよ!」
「嫌よ」
冷たくあしらっても美緒は動じるそぶりも無い。「うえ。誰よ、ジャージなんか置いてんの」と、紙袋を蹴っ飛ばしている。その手に雑巾を押し付けると、亮子はゴミの分別を始めた。
「あんたねえ、後輩に掃除させなさいよ」
「はいはい、お母さん」
誰がお母さんよと怒りかけ、すぐに面倒くさくなって、亮子は黙々と仕分けを続けた。
そのうちに、ぱらぱらと他の一、二年生が顔を出し始めた。
「あんたたちね。部室は綺麗に使いなさい」
肩を竦める者、申し訳なさそうに亮子を見返してくる者と、反応はまちまちだ。
「それからこれ、誰の」
亮子は冷たく言ってDVDケースをつまみあげた。外はB級映画のジャケットだが……。
皆、一斉に黙り込んだ。女子はきょとんとしているが、男子部員の間で落ち着き無く目線が飛び交う。
「誰のでもないのね。じゃ、帰りに捨てとくわ」
亮子が不燃ごみの袋に放り込むと、「ああ! 俺の!」と悲痛な叫びが上がった。一年生の男子だ。
亮子は青少年の育成に不適切なDVDの入ったケースでその頭を叩くと、後輩の情けない顔に免じて返してやった。男子の間で同情交じりの笑いが起こり、状況を察した美緒がにやにやしている。まだ分かっていない女子部員たちに説明する気もせずに、亮子は腰に手を当てた。
「あんたたちね、私物は持って帰りなさい。ほら、手分けして机の上、棚、床の雑巾がけ。それからごみ捨て。さっさとやる!」
慌てて動き出す部員達。亮子はため息をついて、自分も窓を拭き始めた。
ふと、外の桜の木に目をやる。二月下旬の今、まだ蕾は固く、とても桜吹雪は望めそうに無い。式は三月頭。中学の卒業は桜に見送られたのに、どうして高校の卒業式というのはこんなに早いのだろう。
もの思いに耽りかけたが、人に働かせておいて自分だけさぼるわけにもいかない。亮子は慌てて手を動かした。
「寂しくなるね」
美緒がぽつりと呟いた。
「そうね」
三年生には、進学する者も就職する者もいる。県外に出る者も多い。次に会う機会はいつだろう。そのうち何人が、小説を書き続けるのだろう。
他人事のように思っても、一年後には我が身。亮子は手を動かしながら、漠然とした不安に駆られた。
窓拭きを終え、棚の整理に移る。コピー用紙をホチキスで綴じた子どもだましの部誌。載っている作品も今は記憶に新しいけれど、何年か前に初めて書いた小説を、もう恥ずかしくて読み返せないように、そのうち記憶から消してしまいたくなるだろうか。それとも大人になって、懐かしく目を細めて読み返すだろうか。
いつか、日々の忙しさに紛れて小説なんて書かなくなるかもしれない。「そういえばあの頃、小説書いてたよね」なんて、すっかり思い出話になって。
「寂しいね」
亮子はもう一度呟いて、外の桜の木を見た。まだ冷たい風に吹かれて、枝が微かに揺れた。
----------------------------------------
必須お題:「業界」「一斉に黙り込む」「桜」
任意お題:「どう考えても、これからはエコの時代である」(使えず)
縛り:冒頭の一文を統一
「年末の大そうじもむなしく、たった三ヶ月であっという間に散らかってしまった」
制限:2048字以内
亮子は部室を見渡して、立ち尽くした。乱雑に積まれたマンガ、DVD、脱ぎ捨てたジャージにダンベル(運動部でもないのに何故こんなものが転がっているのだろう?)、得体の知れないガラクタ。皆、何のつもりで文芸部に所属しているのだろう。誰かの小説の原稿だの、データの入ったフロッピーだのもあることにはあるが、用途不明のガラクタの方がずっと多い。
亮子はため息をついた。副部長の肩書きながら、最近は家の手伝いに追われてあまり顔を出していなかった。じきに三年生が卒業するということで、部室で送別会をという話が出たため、準備に来てみると、この始末。送別会は明日だというのに。おまけに送別会を発案した部長の美緒は、まだ姿を見せる気配が無い。
こうしていても仕方がないと、亮子は鞄を置いて腕まくりをした。すっぱい匂いを漂わせるジャージを指先でつまみ、折り良く持っていた紙袋へ。マンガやDVDを集めて、段ボール箱に突っ込む。片っ端から詰めていると、蓋が緩んでいたのかDVDケースが開き、ちらりと見えた中身に亮子は眉を顰めた。まったく、文芸部を何だと思っているのだろう。
「ごめん! HRが長引いてさ」
美緒が駆け込んできた頃には、亮子は我を忘れて一心に床のインク染みを拭いていた。何か始めると没頭する癖がある。
「私なんでこんなことしてるんだろう……」
思わずそう呟いた亮子に、美緒が目を輝かせて拳を握った。
「そういう積み重ねが大事なの。そしていつか清掃業界の星になるのよ!」
「嫌よ」
冷たくあしらっても美緒は動じるそぶりも無い。「うえ。誰よ、ジャージなんか置いてんの」と、紙袋を蹴っ飛ばしている。その手に雑巾を押し付けると、亮子はゴミの分別を始めた。
「あんたねえ、後輩に掃除させなさいよ」
「はいはい、お母さん」
誰がお母さんよと怒りかけ、すぐに面倒くさくなって、亮子は黙々と仕分けを続けた。
そのうちに、ぱらぱらと他の一、二年生が顔を出し始めた。
「あんたたちね。部室は綺麗に使いなさい」
肩を竦める者、申し訳なさそうに亮子を見返してくる者と、反応はまちまちだ。
「それからこれ、誰の」
亮子は冷たく言ってDVDケースをつまみあげた。外はB級映画のジャケットだが……。
皆、一斉に黙り込んだ。女子はきょとんとしているが、男子部員の間で落ち着き無く目線が飛び交う。
「誰のでもないのね。じゃ、帰りに捨てとくわ」
亮子が不燃ごみの袋に放り込むと、「ああ! 俺の!」と悲痛な叫びが上がった。一年生の男子だ。
亮子は青少年の育成に不適切なDVDの入ったケースでその頭を叩くと、後輩の情けない顔に免じて返してやった。男子の間で同情交じりの笑いが起こり、状況を察した美緒がにやにやしている。まだ分かっていない女子部員たちに説明する気もせずに、亮子は腰に手を当てた。
「あんたたちね、私物は持って帰りなさい。ほら、手分けして机の上、棚、床の雑巾がけ。それからごみ捨て。さっさとやる!」
慌てて動き出す部員達。亮子はため息をついて、自分も窓を拭き始めた。
ふと、外の桜の木に目をやる。二月下旬の今、まだ蕾は固く、とても桜吹雪は望めそうに無い。式は三月頭。中学の卒業は桜に見送られたのに、どうして高校の卒業式というのはこんなに早いのだろう。
もの思いに耽りかけたが、人に働かせておいて自分だけさぼるわけにもいかない。亮子は慌てて手を動かした。
「寂しくなるね」
美緒がぽつりと呟いた。
「そうね」
三年生には、進学する者も就職する者もいる。県外に出る者も多い。次に会う機会はいつだろう。そのうち何人が、小説を書き続けるのだろう。
他人事のように思っても、一年後には我が身。亮子は手を動かしながら、漠然とした不安に駆られた。
窓拭きを終え、棚の整理に移る。コピー用紙をホチキスで綴じた子どもだましの部誌。載っている作品も今は記憶に新しいけれど、何年か前に初めて書いた小説を、もう恥ずかしくて読み返せないように、そのうち記憶から消してしまいたくなるだろうか。それとも大人になって、懐かしく目を細めて読み返すだろうか。
いつか、日々の忙しさに紛れて小説なんて書かなくなるかもしれない。「そういえばあの頃、小説書いてたよね」なんて、すっかり思い出話になって。
「寂しいね」
亮子はもう一度呟いて、外の桜の木を見た。まだ冷たい風に吹かれて、枝が微かに揺れた。
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任意お題:「どう考えても、これからはエコの時代である」(使えず)
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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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