きのうの続きということで、RED部門の個人的オススメ作品をまとめてみました。あくまでわたしの好みに基づいて、各部門4本ずつ絞り込んではみましたが、ほかにも良作多数でした。
お時間のある方は、企画ページにあらすじがありますから、ぜひそちらからもお好みにあいそうな作品を探してみられてくださいね。(RED部門:http://sffesta2011.tuzikaze.com/sakuhinred.htm BLUE部門:http://sffesta2011.tuzikaze.com/sakuhinblue.htm)
と、いうことで、オススメ作品の紹介です。
「ルカに捧げよ」 俊衛門様
http://ncode.syosetu.com/n8404v/
ハードSF、長編。
厳密な監視のなされる管理社会。人々は体内にナノボットをもつことで、怪我や病気も速やかに自己治癒することを得た。わけても特徴的なのが脳波の常時測定と、それの自動的なネットへの伝達。ひとは誰かに害意を抱いたり自殺願望を高めたりした時点で、通報され、危険な思想はプログラムによって矯正されてしまう。
そして精神世界「フリーサイド」の実現。肉体を電子に置換して、フリーサイドに「移行」した人間は、そこで永遠の生命と、苦痛のない完全な安寧を得ることができるという。
老衰以外の死がほぼ駆逐されたといっていい都市。しかしそこで連続して起こりはじめる、奇妙な自殺騒ぎ。自ら死を選んだ彼らは共通して一冊の本を所持していた。人々はなぜ死にたがるのか、事件の背景で糸を引くものとは……。
主人公のバイオノイド・ユーリは、体制側に所属する存在で、人命を守るための監視網や強制措置を、推進する立場にいる。はじめは疑いもせずにそうしたお題目を信じていたユーリだが、数々の事件と出会いを経て、徐々にその価値観を揺さぶられていく。
倫理とは何か。イデオロギーとは、人のアイデンティティとは。そうしたことを正面から問う、力強い大作でした。もし長いからと読むのを躊躇されている方がいらっしゃるなら、とてももったいない。必読の一作です。
「I think about――」 藤咲一様
http://ncode.syosetu.com/n4129v/
中編。
ロボットが普及して、高性能のヒューマノイドが当然のように市街を闊歩している時代。主人公はまだ若いながら、いずれ父親のあとをつぐべく、ロボット技師の資格を取ったばかりの少年。彼は妹とふたりで出かけた帰り道、なぜか森の中でぽつんと長いこと風雨にさらされていた、古いヒューマノイドを見つける。兄妹はそいつを修理して、もとの持ち主のところに返そうとするけれど……
大きな事件は起きないながらも、読み終えてあったかい気持ちになれる素敵な日常モノ。
冒頭、主人公が初仕事でロボットの修理に取り組む様子が詳細に描写されているのですが、それがロボットの存在にたしかなリアリティを与えていて、ぐぐっと引き込まれました。
ロボットが普及していった背景や設定などが、歴史、経済、制度といった社会的な部分と、生活に密着した身近な部分の両面から描かれているのが、とても好みでした。
「Mono語」 武倉悠樹様
http://ncode.syosetu.com/n7617v/
短編。
拡張現実――いま、スマートフォンなどで実現している技術が、さらに進んだ社会。拡張現実を視界に表示させ、ノイズキャンセリングで騒音をかき消して、人々は町を歩く。
高度なノイズキャンセリング技術が普及して、当たり前のものになった結果、人々は騒音に無頓着になった。音が注意を引く役に立たなくなったため、広告はアテンションタグを拡張現実に表示させるというものが主体に変わり、そうしたタグは無料の端末を使っていれば、強制的に表示されてしまう。それを嫌って広告をカットできる有料端末を選ぶ人も多い。逆転現象。「今や知る権利でなく、知らずに済む権利を皆、こぞって買い求める」、そんな時代。
丁寧に描かれた社会は、本当にわたしたちのほんの半歩延長上にある姿。生々しく描き出された街のようす。それを当然として受け入れつつも、掻き消せない違和感を抱えている主人公の心の隙間。
こちらも大事件などは起きない日常ものながら、さりげなく語られるテーマが、身近なものだけにずしりと重いです。生々しく肌に迫ってくる描写、そこから伝わってくる不安感が秀逸でした。
「脳内パンク寸前」
http://ncode.syosetu.com/n3903w/
中編。
チラシで見かけた近眼手術を受けにいったのは、格安の価格につられてのことだった。ところが病院にいってみれば、待っていたのは「意識を仮想世界に飛ばして、そのあいだに手術を済ませる」という、非情に胡散臭く、かつ大雑把な説明。
質問はなんでも受け付けるといいながら、疑問をさしはさむほどの暇もなく、いきなり手術をはじめられてしまう主人公。それでも途中までは、ものめずらしい仮想世界の光景を楽しんでいた主人公だったが、その中で出合った看護師姿のAIが、妙なことを言い出して――
シュールレアリスムの香りただよう、驚きの展開の連続。ちょっとヘンテコだけど魅力のあるキャラクターたち。冒頭はわりと軽いノリから入ったけれど、途中からはかなりどっしりしたストーリーにうつっていきます。主人公がかつての幼い日、好きだった女の子にしでかしたひどい仕打ち。ずっと心の奥底から消せずにいた、そのことへの後悔。
シュールな展開は、読む人によって好みがわかれる部分があるかもしれませんが、とにかく読んでいて面白かった。長さを感じさせず、ぐいぐい続きを読ませる筆力がすごいです。とくに後半、幼馴染であるヤモさんのキャラクターがとても魅力的でした。
と、いうことで、本日RED部門も全作品読み終えて、投票も済ませてきました。いやー、読みごたえあった!
もともと以前から大好きな作者さんの小説ならばともかく、初めて読む方の長編って、時間がないときは、なかなか読みだすのをためらっちゃったりするんですけども。しかし本企画、読み出したら続きが気になって、あっという間に読んでしまった作品が多かったです。
オンラインノベルで、これだけいろんなカラーのSF作品を、こんなに短期間に読む機会なんてなかなかないですね。楽しかった!
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