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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
幸福な食卓 (講談社文庫)
幸福な食卓 (講談社文庫)


 読了。

「父さんは今日で父さんをやめようと思う」――そんなインパクトのある一行から始まる連作短編集。
 変なところが生真面目で、思いやり深いけれど思いつめる癖のある父さん。家を出て一人暮らしをしているのに、しょっちゅうご飯だけを作りにやってくる母さん。ものすごい天才で周囲の期待も高かったのに、頭を使うことには充実感を覚えないといって、農業法人に就職しておいしい野菜づくりに生きがいを見出した兄の直ちゃん。そんなちょっと風変わりの家族に囲まれた主人公。
 そういうちょっとコミカルな序盤からスタートして、じわじわと明かされていく家族の歪み。どうしてこんな形になったのか。それぞれの関係が、どうかわっていくのか。

 登場人物が魅力的です。直ちゃんの恋人・ヨシコがすごくいい。がさつだし二股三股かけたりするしと、最初はヤな女として登場するんだけど、後半のエピソードでだんだんとわかってくる、芯のところがすごく優しい女性。主人公の彼氏の大浦君も、ちょっとずれていて面白くて、親しみが持てました。

 くすりと笑えて、泣けて、じわっと心に沁みる、優しい物語です。

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 本題のまえに。末尾に拍手コメへのお返事があります。

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卵の緒 (新潮文庫)
卵の緒 (新潮文庫)


 読了。

 中編二本が収録。
 父親を知らず、「自分は捨て子なんじゃないか」と思っている育生は、ある日、母親にへその緒をみせてくれるように頼む。だけど母親が出してきたのは、卵の殻。「母さん、育男は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」けろっと答える母さんは、はぐらかしてばかりで、ほんとうのことをなかなか教えてくれなかったけれど……『卵の緒』
 妙な経緯でとつぜん一緒に暮らすことになった異母弟は、まだ十歳の男の子だというのに、出来すぎなくらいの『いい子』で、要領がよくて、人好きがする。子どもらしくないその器用さ、人当たりのよさが、どうも気に入らないと思う主人公は、はじめのうちは異母弟のすることに反発してばかりいるけれど……『7's blood』

 表題作よりも、『7's blood』のほうが印象深かったな。異母姉弟の複雑で微妙な関係、大人の都合にふりまわされる子どものままならなさ。母親にふりまわされて苦労してきた七生が身につけた、へんに世慣れた器用さが切ないです。

 いまのところ瀬尾まいこさんの本、読了三冊です。『幸福な食卓』も『卵の緒』もよかったんだけど、『戸村飯店青春100連発』が一番ストレートにがつんと来たなあって思いました。またそのうちほかの本にも手をだしてみたいな。


 追記に拍手コメへのお返事があります。

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ピスタチオ
ピスタチオ


 読了。

「棚」というちょっとかわった筆名でライターをしている翠は、日本で仕事をしながら、どういうわけかこのところ、アフリカの風を感じる機会が続いた。そんな折に舞い込む、ウガンダへの取材旅行の話。旅立った棚が出会う、奇妙につながったいくつもの出来事、奇妙な縁。なにか大きな力に背中を押されるようにして、棚が見つけたものとは……

 非科学的なものを信じることに抵抗を覚えながらも、なにかに導かれているとしか思えないような流れで、はるかな異国を旅する棚。アフリカの大地、夜の暗闇、精霊、呪術と分化していない医術。そこに生きる人々の価値観、信仰。

 棚に掘り起こされることを待っていた物語。人はなぜ物語を必要とするのか。
 ヒトという動物が言葉を話すようになってまもないころ。そういう古い古い時代から、物語というものは、生まれ続けてきた。語られるうちに変形し、消えて、また新たな物語が生まれ……。
 小説がいまのような形態になったのは、あるいは映画や漫画というメディアが普及したのは、ごく最近のことかもしれないけれど、年寄りが焚き火を囲んで子どもたちに昔話を聞かせていた時代から、ずっとずっと、物語は必要とされ続けてきた……

 ほの暗く湿ったイメージ、ほのかな不気味さや、わりきれない感じがあって、万人に面白い本ではないかもしれないけれど、個人的には読んで良かった一冊でした。ストーリーそのものが面白いというよりも、ところどころでさりげなくにじみ出る価値観のほうが、印象深い感じ。

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 本題の前に、きのう、過去作に拍手をいただいていました。ありがとうございます!
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檸檬のころ (幻冬舎文庫)
檸檬のころ (幻冬舎文庫)


 読了。

 クラスで目立たない、いつも隅のほうにいる子。ちょっと変わっていて、周囲から浮いている子。保健室登校をしているクセのある女の子。ある地方の進学校の学生たちと、その周りにいる大人たちを描いた連作短編集。

 青春小説。ふつうの小説で主人公になるタイプとはちょっと違う、どちらかというと地味な子たちがメインに描かれています。少し勇気が足りなかったり、ちょっと不器用だったりして、望みを手に入れられなかったり、好きな人をちょっと離れたところから眺めていたり……。

 自分の中に、彼らに共感するような素地があるからこそ、ぴたりとはまった……というのが半分。あとの半分は、解説にあるとおり、『豊島ミホは、ふつうをかがやかす達人である。』から。

 自然消滅してしまったあとも、気まずく思いながらもお互いを意識することをやめられない二人を描いた『ルパンとレモン』、音楽に夢中でずっと周りの子達と距離を置いていた女の子が、とつぜん恋に落ちてじたばたともがく『ラブソング』の二本が、とりわけ印象に残りました。

 かっこわるい、情けない、無様でみっともない、登場人物のそういうところが、とてもいとおしい。万人に受けるかどうかはわからないけれど、とても好きな一冊です。

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 末尾に拍手コメへの返信があります。
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本当の戦争の話をしよう (文春文庫)
本当の戦争の話をしよう (文春文庫)


 読了。

 本当の戦争の話をしよう。本当の戦争の話というものは、全然教訓的なんかではない。信じられないような荒唐無稽な話に聞こえても、それは本当に起こったことなのだ。それが本当に起こった出来事でなかったとしても、それは戦争の本当の姿なのだ。

 ベトナムで、汚泥の沼に沈んでいった戦友を、恐怖に駆られた自分が殺してしまった兵士のなきがらの様子を、どうしたら忘れられるだろう? そこで起きたことを、どうやったら戦争にいかなかった人々に、正確に伝えることができるというのだろう?
 生き残ったあとも戦争の亡霊につきまとわれつづけた主人公、あるいは作者の、必死の語りかけ。
 ひとつひとつのエピソードが、実際にあったことなのか、実際にはなかったことなのか、わざとあいまいにされているけれど、そこに描かれているものは、ベトナムの真実。

 戦争文学に関心のある方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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