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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
山田 正紀
早川書房
発売日:2010-04-05
 
 悪意ある神、人類を翻弄して楽しむ神の存在と正体を暴き、わずかな手がかりだけを頼りに戦おうとする人類の反逆の話……なんだけど、なんだろうこの気持ち。ファンの方には申し訳ないのだけれど、正直にいうと、すごく面白そうな小説のあらすじを読んだような気分でした。うーん。

細部の描写が少なくて、登場人物の書き込みが足りていないので、「さっき登場して知り合ったばかりの人物同士なのに、いつの間にかなんでそんなに仲良くなってるんだろう?」みたいな違和感がありました。それから、「えっそんな簡単な理屈で納得したの? それでいいの?」みたいな感情と論旨の飛躍も。
壮大な設定に見合うだけの演出、ハッタリが足りてなくて、筋書きが宙に浮いている、のかな。どうせなら五倍くらいの長さを使って、丁寧に細部まで書けば、すごく盛り上がる傑作だったんじゃないのかなあ。

でもそんな好き勝手なことをいいつつも、これが最初に刊行されたときの時代背景を考えたら、衝撃をもたらした作品だったんだろうなあと思います。価値観を揺るがすというか。だから、当時の日本SF界を知らないいまの読者の無責任な意見。
どうせなら自分の妄想フィルターを全開にして、がつがつ人物造形を妄想で補完しながら読めばよかったのかもしれないなと、読了後に思いました。子どものころはそういう読み方が得意だったはずなのに、いつの間にかお膳立てされて提示されたものだけを読む読者になってしまっているような気がする……。うーん。

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光の指で触れよ (中公文庫)
光の指で触れよ (中公文庫)


 読了。

『すばらしい新世界』で描かれた家族のその後のお話。夫が恋をして、それを知った妻が混乱のうちに家を出て行ってしまう。それも、下の子の手を引いて、ヨーロッパまで飛び出す。上の子はすでに寄宿生として家を出ていて、すっかりばらばらになってしまった四人。
 日本に残った夫も、ヨーロッパを転々とする妻も、それぞれの場所での出会いがあり、新しい世界を知る。偶然そのどちらにも共通した出会いは、農業。企業がやるような、大規模な単作の農業ではない、その土地にあったやり方で、たくさんの種類の農作物を組み合わせて作って、農薬に頼らず、効率をもとめず、自分にほんとうに必要な物以外を望まない、そういう暮らし方。やがて再会した夫婦は、そのあとの生き方をどう選択するのか……

 主人公の一方である夫のほうは、風力発電を専門とする技術者です。前作で、めったなことでは壊れずメンテナンスの容易な小型の風車を開発して、各国に向けて売り出し、大型の発電所を作るにはむかない僻地に導入するような、大きなプロジェクトを立ち上げています。ほんとうなら勤続年数からも、それだけの実績からも、とっくに管理職になっていないといけない頃なのに、意地でいち技術者として現場にとどまっている。そういう主人公の立場からの、工学的で技術者よりのものの見方。それから、もともとスピリチュアルなものに関心のある妻の、生き方や哲学、精神の在り様についてのものの捉え方。その両方の目で、地に足のついた暮らしということ、人の幸福ということを考える。
 池澤夏樹さんは文系理系の両分野にたいへん関心と造詣が深い方で、世界を丸ごと、それもいろんな広い視点から、冷静に、だけど誠実に見つめるその視線が、いつどの作品を読んでいても、すごい、と思います。

 あと、解説がすごくぴしゃりとはまっていて、そうそう、と思いました。池澤夏樹さんの小説は、あらすじだけ読んでも、本当のよさがわからない。こういう生き方もあるんだ、こういうものの見方があるんだ、という感覚。読んだあと、自分の世界をすこしだけ広げてくれる。そんな本です。
 前作を読まなくても話はわかるけれど、前作の『すばらしい新世界』もよかったので、ご興味のある方は、そちらから読まれてもいいかもしれません。

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きらきらひかる (新潮文庫)
きらきらひかる (新潮文庫)


 読了。

 脛に傷持つもの同士ってやつだね――睦月はそういって朗らかに笑う。ゲイの睦月に、アル中で自分の感情をうまくコントロールできない笑子、アンバランスな夫婦。そのうえ睦月には、昔からの恋人までいるのだった。
 互いの両親には相手の問題を隠したまま結婚した二人。偽装結婚というには、互いのことを大事に思っている彼ら。けれどどこかバランスを欠いていて、うまくかみ合わない。だんだんと情緒不安定さを増していく笑子。だけど、睦月の恋人である紺にも、笑子は好感を抱いていて。

 睦月も笑子も、それぞれに大人になりきれない部分を残していて、不安定なところがある。どこか欠けた人間どうしが、寂しさをもてあまして、不器用に傷つけあいながら、それでも大事に思いあっていて。
 二人とも、それぞれにすごくダメなところのある人なんだけど、そのダメさに悶絶するほど萌えた……! 現実のダメ人間とお付き合いするには覚悟がいるけれど、フィクションのダメ人間には異様に共感したり萌えたりする自分がいます。

 あと、文章の空気というか、描写がすごくて、どっぷりひたって読みました。笑子が睦月を銀のライオンにたとえるくだりがすごく好きです。儚くて、不安定で、だけど強い、銀のライオンたち。

 作外のことになってしまいますが、あとがきに書かれている言葉が、とても印象深かったです。ちょっと引用。
「素直にいえば、恋をしたり信じあったりするのは無謀なことだと思います。どう考えたって蛮勇です。
 それでもそれをやってしまう、たくさんの向こう見ずな人々に、この本を読んでいただけたら嬉しいです。」

 出会えてよかった一冊でした。薦めてくださったねじ様に感謝!

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汚れつちまつた悲しみに…… (ぶんか社文庫)
汚れつちまつた悲しみに…… (ぶんか社文庫)


 読了。

 といっても、気の利いた感想を書けるほど、詩という媒体に親しんでいるわけではないのですが、情景描写などに、ものすごく美しいくだりがいくつかあって、ぎゃあって思って悶絶しました。なんだこの小学生みたいな感想……(汗)
 詩に限らず、美文に出会うといつもぎゃあって思います。

『更くる夜』という詩の一節を引用。

  随分……今では損なはれてはゐるものの
    今でもやさしい心があつて、
  こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、
    感謝にみちて聴きいるのです、
  感謝にみちて聴きいるのです。


 中原中也、恥ずかしながら初読です。でもいろんなメディアで引用されていたりするので、「あっ、このくだり知ってる!」っていうのもけっこうたくさんありました。

 ぶんか社文庫版をひょいと買ってきたのですが、いったいどういう流れで表紙がAKB48のひとなんでしょうか。いや、かわいいんですけど、詩のイメージにはビミョーに合ってない気がするんですが。特に裏表紙のガッツポーズみたいなカットが。
 ……などという余談はさておき、「山羊の歌」「在りし日の歌」から選ばれた詩にくわえて、詩集に未収録だった詩も追録されているとのことです。

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ロカノンの世界 (ハヤカワ文庫SF)
ロカノンの世界 (ハヤカワ文庫SF)


 読了。

 はるかな未来の宇宙、フォーマルハウト第二惑星。高度な知能を有する生命体が、複数存在する星。
 その惑星に、全世界連盟から派遣された調査隊。通常の手段では、連盟の人々に通信が届くまでに八年もかかるような辺境の星で、平和的な調査のためにやってきたはずの彼らは、突然の攻撃にあい、隊長のロカノンを残して全滅してしまった。
 連盟に仇なす勢力が、この未開の地の一種族を利用して隠れ蓑にし、兵力を固めようとしている。そのことを知ったロカノンは、通信手段を求めて、いまだ知られざる辺境の地を、命を賭して旅をする……。

 これまで読んできた同じ方のほかの本に比べたら、最初が少しとっつきにくい感じはあったのですが(あと登場人物がちょっと多くて、自分の記憶力のなさに失望した)、中盤以降、ぐいぐい引っ張られて読みました。

 風虎という、翼の生えた虎さんを乗り物に、空を飛んで移動する場面が多いんですけど、そこが個人的にツボでした。天馬じゃなくて、虎なところが。ロマンですよね(力説)
 途中、とても神々しい姿をした人種が登場するんですけど、外見は美しくて神秘的なのに、知能や行動パターンが昆虫のような感じで、そのギャップにすごくぞぞっとしました。

 序盤から逆境に置かれ、それを挽回できる可能性は、敵の手中にある装置だけ、という苦しい状況から始まるストーリー。まさに苦難の旅、という感じなのですが、作品全体に通じる悲しみというか、徒労感のようなもの、やるせない感じが好きです。

 闇の左手、所有せざる人々などの、ほかのSF作品と、基本の世界観を共有している作品でもあります。
 引き続きこの方の本はちょっとずつ集めていこうと思っています。次はどれに行こうかなあ。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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