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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
森見 登美彦
角川グループパブリッシング
発売日:2008-12-25

 青春をこじらせた主人公(大学生。四畳半と同一人物かと最初思ったけれど、違います)が、思いを寄せる黒髪の乙女を、なんとかして籠絡せんとして、さまざまなアクションを起こすのだけれど、直球で突撃する勇気が足りないせいで、外堀を埋めて埋めて埋めまくり、本丸になかなか突撃できない。天然な彼女の鈍さもあいまって、ちっとも思いが通じない。

 彼女は彼女で、なぜかむやみやたらに行動力があり、強運に恵まれてもおり、さまざまにまきおこる事件の渦のど真ん中を、なんということもないようにぐんぐん通り過ぎてゆくので、追いかける主人公がそれに巻き込まれてとにかく大変。

『四畳半神話体系』をはじめ、ほかの森見作品とつながりがあります。これ一冊だけを読むと、少々「?」な部分が残るかもしれません。

 古本市を舞台に、彼女の求める本を手に入れてあげようとして、その本が優勝賞品として掲げられた壮絶なガマン大会に参加する第二章が、とても好きでした。
 第三章も。学園祭の混乱の中で演じられる神出鬼没のゲリラ演劇『偏屈王』、願掛けのためにまる一年同じパンツをはきつづけたパンツ総番長、等々。この悪ノリがたまらなくくせになって、にやっにやしながら読んでました。

 四月に森見登美彦さんに盛大にはまって、けっこう続けて読んでいたので(レビューはいまごろようやく書いていますが)、また追々、ほかの作品の感想も書いてゆきます。

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 コラム集。2000年から6年間にわたって月刊『現代』ほか、雑誌や新聞等に掲載されたコラムをあつめたもの。
 沖縄で何が起きているのか。民族とは。スマトラ沖地震から学んだものとは。イラク派兵、9・11、憲法改正論。風力発電と原発、公害と個人の意識……。

 そういうつもりではなかったけれど、時期的に政治色が強くなってしまったと、ご本人も中で触れておられますが、イスタンブルの書店の品揃え、フランクフルトのブックフェアの話、水の流れと文明のかかわりなどの話題も。

 わたしはもともと小説はこまめに読むけれど、エッセイやコラム、評論などは、あまり熱心に読まない人間なんです。(ほんとは読んだほうがいいと、思っていないわけじゃないんですけど……)でも、池澤夏樹さんと梨木香歩さんの本は例外。
 単純に好きだからなのだけれど、じゃあどこが好きなのか、どう好きなのかということは、説明するのが難しいなと、レビューを書きながら、たびたび思います。

 それでも説明するならば、その姿勢、視点、視野、そういうものへの、共感と憧れだと思います。同感と思うにしろ、驚くにしろ、ひとつひとつの言葉がストレートに自分の胸に響く。面白い本に出会うのは、そう難しいことではないけれど、そういう作家さんにめぐりあえるのは、すごく幸運なことだと思います。

 もうちょっと客観的なことをいうなら、池澤夏樹さんは、理系と文系のどちらの分野にも、造詣が深い方です。これまで北海道、東京、沖縄、フランス、ギリシャとさまざまな地での暮らしを経験されています。旅もたくさんされる。職業柄ということを差し引いても、ものすごく読書家で、ここ数年は世界文学の紹介にも力を割かれています。そうした経歴のこともあるのでしょう。その視野はとても広くて、深い。それから、公正であろうという姿勢。

 いろいろ考えさせられた一冊でした。

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 本題の前に事務連絡。そろそろ平常運転といいつつ明日は呑んでくるので更新ありません!(キリッ)
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※ おおいにネタバレをふくむ感想です。

 地下鉄のホームから出ると、そこは三十年前の世界だった。
 ある日を境に突然、しばしば過去の時間軸に迷い込むようになった主人公。はじめはわけがわからないままさまよっていたが、次第にそこで知り合った男が、己の父であることに気づく。
 ワンマンで、傍若無人で、わが子を子とも思わないような非情な父。そう思っていた男の、意外な顔をかいま見る主人公だが……

 はじめは三十年前だったのが、そのたびに迷い込む時代が変わっていく。戦中、戦後、それからさらに戻って大正時代の日本。すれ違う家族、感情の交錯。
 すごくよかったし、とても面白かった。だけど、こんな悲しい結末って、ちょっとあんまりだろう。
 浅田次郎さんの話は、どれも面白く、人情が胸に沁みる。泣かせる。浅田さんの書いた悲劇を、これまでほかに読まなかったわけではないのだけれど、これは悲しすぎる。

 まったく希望がないというわけではないのだけれど、やるせない感情ばかりが強く残ってしまって、うまく消化できません。それだけのめりこんで読んだから、なのだけれど。

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森見 登美彦
角川書店
発売日:2008-03-25

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 大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。
 責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。
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 本文より引用。なんだこれ、なんだこれ! と笑いながら読みすすめ、さらに切々たる訴えが続いたあとには、 
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 今ここにある己を引きずって、生涯をまっとうせねばならぬ。その事実に目をつぶってはならぬ。
 私は断固として目をつぶらぬ所存である。
 でも、いささか、見るに堪えない。
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 このすっとぼけた語り口!
 本作に限らず、森見登美彦さんの語りはだいたいこんな調子。まれにしっとりした空気にも出会いますが、基本的にはコミカルでユーモラス。

 さて本作、主人公は京都の「腐れ大学生」、相当年季の入った古アパートの四畳半で暮らしています。青春をこじらせて孤高の己を気取りながらも、どうしようもなく寂しさをもてあまし、高めなくてもいい方向に精神を高めて、全力で阿呆な行動に情熱を燃やす。

 登場人物の駄目さかげんが、ものすごくツボです。主人公も大好きなんだけど、樋口師匠……! 飄々としたいい男ぶりと、それにもかかわらずの生活力ゼロっぷりのギャップがたまりません。

 森見さんの小説の舞台は、本作に限らず、ほぼすべての作品で京都です。現実の京都のまちがモデルだけれども、そこにちょっとファンタジーが入り込んでいる。森見さんの京都には、人間に混じって天狗や狸が暮らしていて、なぜかきらきらと輝く叡山電鉄が軌道のないはずのところを走り、偽電気ブランなるうさんくさい酒が地下で出回っている。
 ほとんどの作品でそうした世界観がつながっているので、どれか一冊だけを読んでも「?」と思うところが残るんじゃないかと思います。読もうかなという方は、できれば何冊か続けて読んでみられることをおすすめします。

 本作をきっかけにじわじわとはまって、四月、ずっと森見登美彦さんの小説をおいかけていました。文庫化したものは、もうおおむね読み終えてしまって、いまとても寂しいです。転勤のときに持っていける冊数を考え、本は極力文庫で買う派なのですが、我慢できるかなあ……。うう。

 また他の本についてもちょっとずつレビューしますが、最高に好きだったのは『有頂天家族』だったことだけ、先に書き残しておこうかな。狸の兄弟が可愛すぎて、思わず萌え死ぬかと……!

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 みをつくし料理帖シリーズ第五弾。
 ふだんは人情家で好々爺の種市が、その女の顔を見るなり血相を変えて、包丁を投げつけた。二人のあいだにかつて何があったのか――『迷い蟹』
 家の事情で、望まぬ結婚を強いられようとする美緒。縁談そのものはいい話で、彼女の幸せを願って組まれたものには違いないのだけれど、それでも想う人を諦めきれない。そんな友に対して、澪に何ができるのか――『小夜しぐれ』

 あいかわらず面白かった! 心が洗われるというか、人情が沁みる。登場人物のひとりひとりが愛すべきキャラクターっていうのは、すごいことだなとも思う。
 ついでに読むとお腹がすきます……。

 読んでお腹のすく小説はいいなと思います。このシリーズ、巻末に『澪の料理帖』なるレシピがついていて、作中で出てきた料理をほんとうに試してみることができるようになっています。思わず作ってみたくなり、己の料理下手を思い出して思いとどまり。

 そして小松原さまに異様にときめくわたしは間違いなくおじさん好き。
 なんだろう、酸いも甘いも噛み分けたような、顔ではすっとぼけてみせるけれど腹の中では一物あるような、照れ隠しに韜晦してみせる性格が、たまらなく萌えツボのストライクなんですけどどうしましょう!?(落ち着け)

 それにしても、意外と発刊ペースが速いような気がするなあ。嬉しいけど。わくわくしながら続きを待てる小説があるのは幸せだなと思います。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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