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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 読了。

 春が来て、主人公の大野君は大学生になり、彼女と出会って、恋に落ちた。夢中になって毎日毎日会い、たくさん喋って、お互いにわかりあおうとしたけれど、夢中になりすぎてレポートを落とした。大野君のことは好きだけど、毎日不安定になりすぎて、こんなふうに付き合うのはもう無理かもしれないと、そんなふうにいいだした彼女に、大野君はいう。それならぜんぶ、決めちゃえばいい。電話は一日おき、会うのは週末だけ。そんなふうに決めればいい。
 そして二人はゆっくりと、規則正しく、二人の道を歩いていく。


 青春! 甘酸っぱいです。
 読み終えてしばらくおいて冷静になってみれば、キレイすぎるというか、話がうまくいきすぎるというか、そんな感じのところもちょっとある、ものすごく幸せでキレイな小説なんだけども、けれどそういう小理屈はどうでもよくなるくらい、よかった。リアリティとか、たまには忘れてもいいと思う。そういう幸せな気持ちにひたれる物語って、もっともっとあっていいと思う。

 主人公カップルもいいんだけど、脇役、坂本や木戸さんのクセのあるキャラクターが、またすごくいいなーと思いました。

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 読了。

 ――僕らは同じプロジェクトに属する最小単位のユニットだった。プロジェクトの名はハッピネス。僕らは壁にもたれながらスケッチブックをながめた。ときどき笑い、ときどき黙り、ときどきキスをして、ときどき指相撲をした。
 ある日、風邪を引いたようだと彼女はいった。毎年のパターンなのだという。午後四時には会社を早退し、病院にいって、「ぼく」が返ってくるころには布団に入っていた。全体的にきびきびとした行動だった。毎年こんなふうに風邪を引いて、でもいつも三日で復活するんだと、彼女はいった。
 だけど次の日になっても、彼女の熱は下がらなかった。

 題材や話の筋としては、よく見る……というのも失礼だけども、ものめずらしいものではないです。ですが、この手のストーリーでここまで共感して読んだことは、かつてないかもしれない。よかったです。
 魅力的なキャラクターと、その関係性、のなせるわざだと思います。優しくて、切なくて、すごく悲しいのに、読み終えてあたたかい気持ちの残る、極上のラブストーリー。

 中村さんの描かれるカップルって、すごく素敵です。現実には、こんなふうに理解しあえるような、こんなに呼吸のあうカップルって、いないんじゃないかなあと思うんだけども、いたらいいなあとも思います。

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 読了。

 ユキと『ぼく』。ユキの親友・舞子さんとその夫・吉田くん。母親の兄の息子が従兄弟であるように、妻の親友の夫との関係を表す言葉があってもいいような気がした。――義理の友達。言葉の上ではそれが一番正しい気がした。……
 それぞれに良好な関係を築いていた二組の夫婦。けれどある日、とつぜん吉田くんが家出した。たった一枚のメモを残して。『十日間ほど留守にします。必ず戻ります。心配しないでください。』
 吉田くん自身は、言葉どおり十日もせずに帰宅したのだけれど、その小事件をきっかけに、今度は怒った女性陣ふたりが家出してしまう。彼女らが残したメモには、とんでもないことが書いてあった。

 なんだろ。ものすごく盛り上がるとか、感動の超大作とか、そういうのじゃないんですけども、ちょっぴりユーモラスで、絶妙に軽やかで、読んでいてじんわりと心地いい、不思議な読み心地の小説です。ちょっと変わり者のカップル二組が紡ぐ、ひと夏のストーリー。

 わたし自身もこの本、いいなあと思うんですけども、解説に何気なく目を通したら、どうも、もう少し上の世代(三十代くらいの方?)のほうが、もっとピンとくるのかもです。出てくるアイテムやエピソードが、同世代にはたまらないものがあるらしいです。

 吉田くんって、同じ作者さんの『あなたがここにいて欲しい』に出てくる吉田くんなんですね。私はこっちを先に読んだのですが、もしかして、先に向こうを読んでいたほうが、より楽しめたかも。時系列的には、向こうのお話のほうが先なんですよね。
『あなたがここにいて欲しい』の吉田くんも、天然で変わり者で真面目で誠実で、とっても魅力的なキャラだったので、両方おすすめです。(そっちの感想はまた後日!)

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 読了。

 主人公はどうやら少し前に「姉さん」に拾われてきたらしい。弟がほしかったのだと、「姉さん」はいい、弟の名前は「良」がいいともいった。その姉さんの苗字が「半沢」だったから、「ぼく」は「半沢良」でいこうと思った。半沢良としての履歴書を書き、「姉さん」のアパートから近いガソリンスタンドに、アルバイトの面接を受けに行く。
 アパートには姉さんの友達という、かっこいいけれどどこか不器用な女性が、ときどき遊びにやってくる。アルバイト先には面倒見のいいちょっと変わり者の先輩がいて、ときどき深夜に原付で給油にやってくる不思議な女の子がいる……

 いちおうストーリーはあるんだけども、あんまり筋とかは関係ないのかな、という気がしました。作品を包むやさしくて清々しいような空気を、ただ楽しめばいいんじゃないかと。
 ちょっと可笑しくて、ちょっと切なくて、とても優しい。「感動させよう」って力んで書かれたドラマチックな作品とはまたぜんぜん違う、じんわりとしみわたるような心地よさです。

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 読了。

 挫折しっぱなしの人生を歩み、妻ひとり娘ひとりをもちながら、家でも肩身が狭い主人公。かつては英語教師だったけれど、そこも退職し、いまは自分で向かないと思いながらもタクシードライバーをしている。接客がひたすら苦手で、面倒な客もうまくあしらえない。タクシーに乗って三年にもなるわりには、道にも詳しくなくて、カーナビもしっかりとは使いこなせず、頻繁にクレームをもらう。そんな自分に自己嫌悪しつつも、変わる勇気も持てない。お人よしで、いいところもたくさん持っているのに、自分ではそういう自分のよさを信じられず、ただ小さく小さくなって、ひたすらにいやなことをやりすごそうとしている。
 そんな主人公だが、ある日一人でひっそりと昼食を食べていた空き地で、土管の中に一匹のでぶ猫を見つける。御子神というネームプレートを身につけた猫は、けれど近くに飼い主がくらしている気配もない。ペット不可のマンションに住んでいて、当然猫を買えるはずもない主人公は、かかわるつもりもなかったのだが、ある日、車の窓を開けていた拍子に、その猫・御子神さんが助手席にちゃっかりもぐりこむ。どうにか追い払おうとしていたところに、急ぎでのせろと迫ってくる客を拒否できず、御子神さんを乗せたまま発車する主人公。
 はじまりはそんな偶発的な事故だったが、すぐに主人公は気づく。御子神さんと一緒なら、少しだけ、乗客とまともに話ができることに。
 猫を乗せての営業なんて、会社が認めるはずがない。ペット不可のマンションで、厳しい倫理観を持っている妻が、隠れて猫を飼うことを許すはずがない。だけど……

 面白かった……癒されました。
 ちょっと展開がきれいすぎる、という印象はあります。もちろん、作品中では嫌なできごともたくさんあります。主人公がいろいろと自分の弱さに負けたり、現実に悩み苦しんだり、困難にぶつかったりする、そこのところはリアルなんだけども、そのひとつひとつが解決に向かってきれいに収束していく前向きな展開には、「うーん、あんまりきれいに解決しすぎじゃないの?」などと、心の汚れたワタシとしては、そんなふうにひねくれたこともつい考えてしまったり。
 けれど同時に、フィクションはそれでいいとも思います。

 現実の人生では、何もかもが自分の考え方ひとつでうまくいくわけではない。もちろん、厭だなあ厭だなあと思っていることを、思いがけず時間が解決してくれたり、考え方ひとつでものごとががらっと違って見えたり、そういう小さな奇跡はいっぱいあります。けれど、何もかもがそういうふうに美しくはいきません。
 でも、だからこそ、フィクションの中では美しく感動的に話が収まるのも、いいと思う。そんなことを思いました。

 人の弱さや情けなさが、とてもいとおしく思えてくる。そんな一冊です。
 あと猫の癒しパワーは偉大。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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