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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 小市民シリーズ第二弾、読了。

 ころは夏休み。主人公・小鳩君とともに小市民の星を目指し、互恵的関係にあるはずの小山内さんが、なにか隠し事をしている? 違和感を覚え、疑問を持ちつつも、スイーツが大好きな小山内さんにつきあって、美味しいスイーツの店をめぐっている小鳩君。
 そんなある日、小山内さんと出かける約束があって、彼女の家を訪ねていった小鳩君の目の前で、唐突に脅迫電話がかかってくる。小山内さんを捕まえた、五百万で無事に帰す――

 前作にも増して軽妙でかつあきさせない展開、すいすいと読み進んでいくうちに徐々に盛り上がっていく緊張感、ふくらんでいく違和感。最後に待っているどんでん返しと、ほろ苦いラストの余韻。
 米澤さんて、ほんとほろ苦い感じの展開がうまいですねー。感情移入して必死で読んでしまう。
 緩急あって飽きない展開もですが、端々に描かれたユーモアがまたすごくツボで、緊張感のある展開でも、どこかくすりと笑えるようなエピソードが挿入されていく、そのバランスが凄くいいです。エンターテイメントの鑑だなあ。

 最後、ちょっと続きが気になる引き方になっています。読まれる方は次の『秋期限定栗きんとん事件』もぜひあわせて。

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 小市民シリーズ第一弾、読了。

 めざせ小市民、をモットーとする高校生の主人公・小鳩常悟朗は、その昔、推理することが大好きだった。ほかの誰にも明かせない謎を、自分の力で解き明かすことに、喜びを感じていた。
 けれどあるとき、小鳩は気づく。誰にもとけない謎を解いて、満を持して推理を人前で披露し、ひとり得意になったところで、周囲に鬱陶しがられるだけだということに。
 以来、小鳩は推理することをやめた。そうして、同じく本性を包み隠して一般市民になろうとしている小山内さんと二人、手に手を取り合って、小市民の星を目指すのだけれど……。

 キャラクター性や演出などに、どことなくライトノベルの香りがする日常の謎ミステリなんだけど、米澤さん独特のほんのり退廃的なほろ苦さが、そのタッチに絶妙にマッチしていて、軽妙ながらも物足りなさのない、濃くて読み応えのある小説でした。
 ライトノベル読みにオススメされているシリーズですが、そうでなくても楽しめると思います。いずれの事件もささやかな日常の謎ながら、しっかりと張り巡らせられた伏線に、意外性のある展開。

 そしてたしかに青春なんだけれども、王道の爽やかな青春ストーリーとは一味違う、ひねくれた主人公たちの、考えすぎてしまうややっこしい悩み方が、なんていうか、読んでいて変に共感してしまいます。(……自分がひねくれ者だからか!?)

 友達に借りて読んでるシリーズなんですが、自分でも買うかどうか悩んでしまう……ああっ、私のバカ! 転勤のある仕事にさえ就いてなかったら、今ごろもっと買いたい放題好きなシリーズを揃えていけるのに……!

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 読了。

 貞観七年、高丘親王は天竺に渡るため、唐の皇帝に許可を取り付けて、二人の共と連れ立って、船出した。幼い頃から植えつけられた天竺のイメージに誘われ、はるかな地を目指して旅を続ける親王は、行く先々で奇妙な夢にとらわれ、あるいは目覚めているときにも、幾多の不思議な光景にであう。

 ものすごくエキゾチック。幻想というよりも、幻惑的。
 面白かったのは面白かったんだけど、この作品を本当に楽しむためには、私にはいろんな下地が足りないんだろうなという気がします。それが具体的に何かと考えると、悩んでしまうんですけども、人生経験、死生観、性に対する感覚、想像力、歴史知識……うーん。どれともつかないな。ぜんぶかな。

 のめり込めなかった原因のひとつは、語り口になじめなかったことかなあと思います。そういうことで好き嫌いをするのはよくない(というかもったいない)のですが、筆者が筆者であるという顔をして、物語の前面に出てくると、それだけで急に、すっと醒めてしまう性質なのです。
 その物語の語り手が、読者の存在を意識してしゃべっているというのは、べつに平気なんです。一人称の主人公が、読者に話しかけるスタイルというのは、べつに気にならない。あるいは語り手、神でも脇役でも語り部でもいいんですけども、そういう「誰か」が、自分の知っている物語を人に話して聞かせている、というようなスタイルも、ぜんぜん気にならない。
 でもその語り手が「作家」だということがちらりとでも匂うと、なんだかふっと醒めちゃうんです。ただのワガママなんですけど、語り手は、イコール作者であってほしくない。架空の話でもなんでもいいから、少なくとも読んでいる間は、前のめりで騙されたいんですね。いま目の前に広がっている世界は、作者さんが頭の中で考えて書いたものではなくて、そこに本当にある一つの世界、本当にあった(あっている)出来事なのだと、錯覚したまま読みたい。フィクションなんだけど、フィクションということを忘れる勢いでのめりこんで読みたい、作品中に入りこみたいんですよね。

 それができなかった原因のひとつが、語り口であり、あともうひとつが、登場人物に感情移入するとっかかりがあまりなかったことでした。これはまったくもって相性というか、私の持っている人生観の幅の狭さが原因で、本にたいして文句をつけても仕方のない部分なのですが、登場人物の感情に、あまり共感を誘われなかった。男性的なものの考え方だというのも、ひとつの原因かもしれません。私の中にも男性性はあるので、同じように男目線の読み物でも、ものすごく共感できるケースもあるんですけども、今回は、遠くから「ふーん」と眺めているような感じが抜けなくて、のめりこんで読めませんでした。
 このあたりは、歳をとって、自分の世界や考え方がもうちょっと広がってから読みなおせば、また印象が違うのではないかとも思います。また何年かおいてから、もう一度読んでみたいような気がしています。

 あるいは澁澤氏が死を間近にして遺した一作ということで、それを念頭において読めば、作中に描かれる死生観が、また違った意味をもって感じられたのかもしれません。(なるべく小説は先入観を持たずに読みたい派なので、下調べなしで読み、解説でそのことを知りました……)

 ……と、ネガティブなことばかり書いておいてなんなのですが、じゃあつまらなかったかというと、面白かったんです。これだけ個人的にのめりこめない要素があったにもかかわらず、興味深く読めました。
 鳥の下半身をした女、犬の頭をした男、獏。登場する架空の生き物の、奇妙な行動や生態、旅先に広がる光景のもつ豊かなイメージは、それだけでも一読の価値ありです。

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 末尾に拍手コメントへのレスあります。
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 読了。『てのひらの闇』の続編。

 親友の柿島が死んだ――。暴行が行き過ぎた結果、意識不明となって入院していたが、一度は助かると思われたにもかかわらず、容態が急変。あっけなく逝ってしまった。その報を受けた主人公・堀江は、警察に煙たがられるのも一向にかまわず、独力で犯人を捜し始める。はじめはただのオヤジ狩りだと思われていた事件は、調べるにつれて妙な点が目立ち始めて……

 やっぱり藤原さんの小説はいい……!
 エンターテイメント色の強い作品にもいろいろありますし、大衆向けのスナック菓子のような、軽い娯楽として楽しめるチープな美味しさの小説も、それはそれで大好きなんですけども、藤原さんの小説はそういうのとちがうよさ……なんだろう、上質な娯楽、贅沢品。日常の嗜好品というよりも、お気に入りの喫茶店で美味しいコーヒーを飲む贅沢な時間っていう感じ。(へんなたとえでごめんなさい……)

 ハードボイルド! アクションや暴力シーンもあるんだけど、全編を通して流れている、親しい友人を悼む思いが、物語を引き締めています。
 藤原さんの描く男性主人公は、ストイックで頭が切れて、仕事ができて腕っ節が強くて女と酒に弱いです。そしてそこがいい……!
 今回、脇役もとっても魅力的。てのひらの闇で出てきた素敵な女性陣に加えて、新登場の三上社長というオジサンが、すっごくチャーミング。

 いままで読んだ藤原さんの著作の中で、一、二を競うくらいに好きです。もう一作は「シリウスの道」かな……そちらもまた後日レビューしますね。


 続きは拍手へのお返事です。

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 読了。

 舞台は戦前のサナトリウム。肺病に苦しみ、検査結果に一喜一憂して、死の影にとり付かれて日々をすごす青年たちの間、一人、死を恐れてもいないかのように、淡々とふるまう男がいる。
 自ら求めて死ぬかのように、無謀な手術に踏み切った彼は、主人公に二冊のノートを渡す。もし僕が死んだら君にあげる、つまらなかったら焼き捨ててくれたまえといって遺された、その二冊のノートには、病床でつづられた小説、彼の青春が綴られていた……

 周囲の世界との間に壁を作り、己に孤独を課して、けれどどうしようもない強さで愛を求める。心を求める。そんな青年の、短すぎる生涯。
 肝心の作中劇よりも、序盤のサナトリウムの描写の方が好きだったなあ。(ちょっとずれた読者だったかもしれません……)
 けどそれにしても、よかった。この重みは、基本的にフィクションであるにせよ、作者さんの生きた体験に基づく感情が描かれているからこその重みなんだと思います。(って、福永さんの経歴にそれほど詳しいわけじゃないんですが……)
 完全フィクションの、ドラマやエンターテインメントに徹した小説もいいけれど、こういう魂のこもった作品を読めるのは貴重な機会だなあと思います。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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