小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。

きのう、火星に行った。 (講談社文庫)
読了。
児童書。小学六年生の山口拓馬は、何をするにもあんまりやる気のない子。要領がよく、頭がいいので、授業も聞いていてつまらないし、運動だって頑張らなくてもそれなりにできる。そのせいでかえって、何事も楽しめないようになっていた。「つまらない」「くだらない」が口癖の拓馬……
そんな拓馬だが、ある日、病気がちなせいで転地療養のため家族と離れて暮らしていた弟・健児が家に戻ってきて、一緒に暮らすことになった。
それまで一人で気ままにやっていたのに、急にわがままで奔放な弟にふりまわされ、お兄ちゃんなんだからとガマンをしいられて、面白くない拓馬。学校でも、居眠りしている間にハードル走の選手をおしつけられてと、どうにも面白くない状況が続いていた。
それまでずっと、いろんなことを、つまらないと思いながら生きてきた。けれど友達や弟とのやりとりの中で、拓馬は少しずつ気づいていく。本気を出してがんばれば、勉強だって、ハードル走だって、つまらなくなんてないんだっていうことに。
まわりの子たちよりも頭がよくて要領がよくてやる気のない、いってみれば、どこの学校にでも何人かはいるような小学生。特別な事件はおきないありふれた日常の中の、少年の成長。でも、大切なことがぎゅっと詰め込まれています。読んでよかった。
ええと、感じが悪いのを承知でいえば、私、子どもの頃は、周りの平均よりもおつむの回転が、ちょっとばかり早い子でした。(しかし、残念なことに、その分を差し引いてあまりあるくらい運動がだめで、人に合わせるのが苦手で、わがままでいやなやつだったので、まったく自慢になりません)
それが、二十歳過ぎればただの人……どころか、十代の後半にはすでにもう、ただの人どころか、マンガやラノベの読みすぎで宿題はしないわ、授業中に小説ばかり書いているわと、すっかり勉強についていけてない子でしたが(絵に描いたようなオタク道)、ともかくおつむのできがかえって悪いほうにはたらいて、子ども時代、とにかく何をするにもやる気のない子でした。
たいして努力しなくてもできることは、ちっとも面白くない。ちょっとくらい努力してもできないことは、がんばってもつまらないから、最初から労力を注がない。いくつかの好きな授業以外は寝てすごし、遠足と聞けば雨が降れと祈り、運動会には台風が来いと祈り、楽することばかり考えて、学校の授業もイベントごとも、ちっとも楽しめませんでした。
それでもゲームやマンガや小説はいつでも面白かったし、小説を書くのも好きだったし、少ないけれどいい友達もいたので、いうほど暗い青春だったわけでもないのですが、しかし、難しいことに頑張って挑むという楽しみを、少しもわからないまま大人になった子どもでした。社会人になって、仕事や対人関係に苦労するようになって、ようやく初めて、頑張る楽しさが少しわかるようになったくらい。
いまは、楽しいです。へたな小説を書くことが。うまく書けない書けないってうんうんうなるのが。
だから、山口拓馬の面白くないという気持ちには、いちいち共感しながら読みましたし、彼の成長には、本気で目頭が熱くなりました。私はこの本を、子どものときに読んでおきたかった……
ちょっと(あるいはだいぶ)頭のいい子どもだった大人の方、ぜひ読んでみて下さい。
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所有せざる人々 (ハヤカワ文庫SF)
読了。
惑星ウラスの空に浮かぶ大きな月・アナレス。それはウラスよりは小さく貧しいけれど、大気をもったひとつの惑星。
かつてウラスでは、オドーというひとりの人物が提唱した主義にしたがい、やがてオドー主義者たちがあつまり、革命を起こした。ものを所有することをやめ、権力というものを廃し、貨幣による経済を捨てて、すべてのものを分け合う、完全なる共産主義の理想郷。彼らを危険視した当時の政府は、彼らに新たな大地――空に浮かぶ月・アナレスを与え、彼らをそこに隔離することで、ウラスの平和を保とうとした。
以来、交易船に載せられた積荷と、わずかばかりの乗員が、宙港同士を行き来する以外、完全にアナレスは閉ざされてきた。貧しいけれど、安定した社会。アナレスに住む人々は、ウラスに暮らす人たちを所有主義者と呼んで、欲得と戦争の入り混じるその世界を蔑視している。
それでも当然ながら、アナレスには独自の問題もあり、年月がたつにつれて、彼らの中にも自身の所属する社会にうまく適応しきれないものもいれば、自身を批判する目も出てくる。
そうした中、一人の物理学者が自分の研究を完成させるために、アナレスを出てウラスを訪れる、アナレス史上初めての人間になろうとしていた――
『ゲド戦記』『闇の左手』と読んで、ル・グウィン三冊目です。(ゲド戦記は6冊あるけど)
面白かった! やっぱりこの人、ファンタジーよりもSFのほうが、私にはツボに入ってきます。
異なる二つの社会の歴史と抱える問題。権力を放棄したはずの社会の中で、表向きには見えない場所に隠れるひそかな権力の構図。そしてそこに生きる人々の切実な姿。ただ科学的好奇心を満たそうとすることが困難な環境におかれた主人公が、ひたすらに目指した自由に研究ができる環境と、いざそこにたどりついたときに彼をとりまいている、目に見えない陰謀の数々。
大筋をいえば、閉鎖されて停滞しつつあるアナレスに、一種の新しい価値観を持ち込もうという試みの物語。でも、ストーリーそのものがどうこうというよりも、アナレスに住む彼ら所有せざる人々の親子関係、婚姻、社会制度、文化、そうしたものが丁寧に描き出されていて、読み応えばつぐんの一冊です。
『闇の左手』もそうですが、このシリーズと世界観を共有する作品群が何作も出版されているので、そちらも追々入手しようと思います。

約束 (角川文庫)
読了。
親友に目の前で死なれた少年、足に障害をおってから引きこもるようになった青年、突然耳が聞こえなくなった少年……
友情や家族愛や恋愛をテーマにした現代小説の短編集。
全体的に、よかったのはよかったんだけど、ときどき感動を狙いすぎているというか、あざといとまではいかないんだけど、魂の篭もっていない話が混じっている気がして……そ、それはあんまりにも意地悪すぎる批評かなあ。
すごい辛口なことをいって申し訳ないのだけれども、作家が自分で生きてきて痛切に感じたことを書いている、という手触りが薄い作品が、たまに混じっている気がします。全部じゃないです。たまにです。中の『夕日へ続く道』なんかかなり好きでしたし。
なにも石田さんがそういう作家さんだというわけじゃなくて、私の行間を読み取る能力とか、感受性とかが鈍いだけなのかもしれないんですが……というか、シロートとはいえ書き手として、お前に人のことは言えるのか。うっ……。
あっ、誤解を招きそうなことを書きましたが、何も、小説書きは体験談を書けということではないです。ないのだけれど、厚みのあるものを書きたいときには、まさに自分が生きていて感じたことを中心にすえて書かなければならない、ような気がします。
私小説やエッセイということではなくて、ストーリーや設定は架空でも、登場人物の心情はホンモノを、自分が生きてきた中でつよく感じたことを書かないといけない、というか。……自分の耳もすごく痛い痛い痛い。ええと。
それにもちろん、荒唐無稽な、あるいは幻想的な、現実の自分とは関係のない小説を書くのも、すごくいいことだと思うんです。現実には体験できないことを仮想体験したり、空想に遊ぶのだって、小説の大きな魅力だもんね。それはまあそれとして。
それでも本気で人を感動させようというときには、想像しただけの心情では難しいんだよなあと、自戒もこめて思います。そうすることがどれだけ怖くても、中心には自分のことを書かないと。そうでなければ、自分に本当に身近な、その生き様をよく見てきた人をモデルにするというのも、ありかも。
主軸として感動を求めるタイプの作品じゃなかったら、そんなことはべつにぜんぜん気にしません。架空の物語としてふつうに楽しみます。
ということで、面白くはあったんだけど、感動ものとしては、ちょっとものたりない感じだったかなあ。そういえば、『4TEEN』のときにもそう思ったのでした。直球で感動を狙うよりも、池袋ウエストゲートパークシリーズみたいな、もっとエンターテイメントに徹した作品のほうが、この方の小説は面白いような気がするなあ。
しかし『スローグッドバイ』は素直に面白かったし、また何かそのうち探して読んでみようと思います。

煙か土か食い物 (講談社文庫)
読了。
サンディエゴのERで働いている腕利きの外科医・奈津川四郎のもとに、兄の一郎から電話がかかってくる。母親が意識不明で入院していて、それが、連続主婦殴打生き埋め事件に巻き込まれたというのだ。
帰国し、母親の事件を追うことを決意する四郎。兄弟と彼らの父親の間にあった確執と因縁。彼らの凄惨な子ども時代とは。そして、一連の事件の背景にあったものとは……
めっちゃおもしろかった!
多分、じっくり読めば、細かいつっこみどころはあると思うんです。でもとにかくそんなことを気にして居る暇がない。文章がいいです。巧いとか美しいとかじゃなくて、勢いが凄い。
リズムに乗ってひたすらフルスピードで疾走し続ける展開。凄絶で刺激的で悲しくてウィットに富んで力強い、けれど読み終えてどこか透明感のある読後感を残す、パワーにあふれた一冊。
ただし虐待とか暴力についての描写が苦手な方については、あまりオススメできません。

蒼路の旅人 (新潮文庫)
読了。
精霊の守人シリーズ第七巻。
新ヨゴ皇国の皇太子・チャグムは、父である皇帝から長らく疎まれてきた。そんな不安定な皇宮に持ち込まれる、南方からの不穏なしらせ。宮廷の陰謀に巻き込まれたチャグムは、敵方の虜囚に身をやつし、たった一人で、敵対する大帝国の王子に対峙することになる……
ああああっ早く続きが読みたい! ものすごい気になるところで終わっていました。
文庫化をじっと待つ身としては……ううっ。いっそハードカバーで……いやいやいや。獣の奏者も精霊の守人も、ずっと手放したくないシリーズなので、いずれ引っ越しても持っていけるように、ガマンして文庫で揃えるのです。さ、さすがにハードカバーで買って読んで、文庫が出たら文庫を買ってハードカバー版を売るとか、そこまでは……やらないデスヨ?(動揺)
まず図書館で借りて読めばいいんですけどね。なんでか本は買いたい派です。よく知らない作家さんの本なら、借りてすませきれるけど、大好きな作家さんなら購入一択。難儀な性癖だな……
本筋に大きく絡む部分じゃないのですが、守人シリーズの世界観がすごく好きなので、ちょっとだけ引用。
「島の女が子どもを孕んでいるときに、驚くほどの大漁が続いたり、襲った船がとんでもないお宝を積んでたりしたら、その幸運は、その腹の子――ヤルターシ・コゥ・ラー<海の恵みの子>――のおかげなんだ。
ヤルターシ・コゥ・ラー<海の恵みの子>は幸運をもたらす子だから、普通の女の子のように陸では育てられない。ツアラ・カシーナ<船の魂>として、船に幸運をもたらすように、やっと伝い歩きできるくらいから、船の上で育てられるんだ。
そして、襲撃をまかせられるくらいの年になったら、船ノ頭になるんだよ」
うまく言えないんですけど、こういうの読むとすごく萌え萌えする……!
いろんな文化や民俗の設定がていねいに作りこまれていて、そしてその世界に色んな民族のいろんな文化や信仰が混在している。それもただ設定されているだけじゃなくて、そうした細部が物語の筋にきれいに絡みあって世界観を構築しているので、上橋さんの小説には、どっぷり世界観にひたって読めるんです。
ハイ・ファンタジーがお好きな方なら、小野不由美さんの『十二国記』シリーズとあわせて、上橋さんの本は読んでおいて損はないです。と、あらためてオススメ。
プロフィール
HN:
朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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