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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)
海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)


 読了。

 ハードSFの短編集。
 特殊な重力環境におかれた世界、屈折する時間と光、パラドックス、人工的な世界、破滅後の地球。濃い作品がぎゅっと詰まった一冊でした。

 サイエンス・フィクションとしての重厚さもありつつ、恋があり苦悩があり、人間ドラマとしても面白いです。
 ただ、視覚描写がぱっと読んですぐに浮かばず、首を捻りながら想像に苦心したような箇所が何回かありまして、そのあたりがもっとすっと自然に伝わってくる描写だったら、さらにもっとSF初心者へのウケも狙えただろうに、ちょっともったいないなあなどと、余計なお世話なことを思いました。

 収録されている短編の中では、『天獄と地国』が切なくていちばん好きだったな。
 遠い未来。人口が激減して、科学技術や知識も、進んだ部分もある反面、うしなわれた部分も大きい。人類が急激に衰退していく時代、いまの歴史や文明が、もうすっかり失われた世界。
 人々の間で、現代とは異質の基盤に拠った理論や常識や、あるいはおとぎ話が、世界がはじめからそんなふうであったかのようにまかり通っているところが、なんていうか、SFの醍醐味だなあという感じがして、すごく好き。

『キャッシュ』は、コールドスリープしながら遠い宇宙を目指す移民団の話で、何百年もコールドスリープしている間に記憶が失われてしまうことを避けるために、全員で同じ仮想現実の中で生活している……という設定。ミステリ風の構成で、面白かったんですけども、なんだか上遠野浩平さんのナイトウォッチシリーズを思い出しました。……っていうかほぼ同じ設定です。
 でも、どこかで別の作家さんの、ちょっと似た設定のお話を読んだこともあるので、似ているとかいうまえに、もしかしたらむしろSF界では一種の典型なのかな? シロートなのでよくわかりません(汗)

 ともかく面白かった。(きかさん貸してくれてありがとう!)
 ツイッターで読了直後にぶつぶつ感想を呟いていたら、HONET様に同じ方の『玩具修理者』をすすめていただいたので、先日読んでみたのですが、そちらもなかなか面白かったです。SFホラーでした。わたし、怖いのはじつは苦手なんですが、ややSF>ホラーな感じだったので、それほど怖がらずに楽しく読めました。そちらのレビューはまた後日。

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卒業 (講談社文庫)
卒業 (講談社文庫)


 読了。

 いつもつるんでいる大学生の友達グループ6人の中で、立て続けに二人の死者が出た。それぞれ、自殺の可能性が高いとされつつも、そう断定してしまうには疑わしさが残っている。しかし、もし他殺だったとして、手を下すことができたのは、おそらく仲間の誰かのはず。いったい誰に、そんな動機があるというのか?

 うーん。読んでいて面白かったのは面白かったんだけど、なんていうか、読み応えとしては、ちょっと物足りない感じでした。彼らの間の友情とか、登場人物同士の微妙な心情の推移を、もっと丁寧にかいてあったら、きっと面白かったと思うのに。
 推理小説を推理しないで読む私が悪いのですが、基本的にハウダニットに興味がないので、もっとがっつりした人間ドラマを読みたいなあっていうのが、正直な印象です。……それにしても、なんて失礼な言い草だ。ファンの方にはごめんなさい(汗)

 それにしても、調べてみたら古い本だ! 昭和61年とかです。
 なんでいまになって読んだのかというと、母が買ってきていつのまにか私の積読に混ぜてたからです。「なんで?」ってきいたら「いやー、読もうと思って買ったんだけど、本を読む気分じゃなくなった。あんたが読むんじゃないかと思って」だそうです。いや、置いてあれば読むけどさ。

 東野圭吾さんの作品って、わたしにとってはツボなのと苦手なのとやたらと極端で、これはすごく面白かったけど、あれはなにが面白いのかわからなかった、みたいなときがあります。多作な方だけに、「それならかたっぱしからぜんぶ読んでみたらいいさ作戦」が使えません。悩みどころです。
 じゃあ投げてもう読むのやめようかというには、ツボだった作品がすごくスキなので、いつも悶々としています。

 ……というようなことをツイッターでぶつぶついっていたら、かなた様に『赤い指』を薦めていただきました。同じシリーズだけど、本作よりもずっと後に書かれた作品です。
 そちらも今日現在、既読であります。そして、すごく面白かった。
 またいずれ、加賀刑事のシリーズは、少しずつ読んでみようと思います。

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遠まわりする雛 (角川文庫)
遠まわりする雛 (角川文庫)


 読了。

 古典部シリーズ第四弾、今度は短編集。高校入学まもなくのころのエピソードから、季節をめぐるたびに、少しずつ変化していく部員たちそれぞれの考え方と関係性を描いた一冊。

 一冊を通して、これは! っていうほどの印象はないのですが、まあシリーズものだからそこはそれ。
 自己嫌悪をもてあます福部が、個人的には見所でした。米澤さんの小説って、けっこう「自己嫌悪」の感情がテーマになっていることが多いような気がします。そしてそれが、わたしが米澤さんの小説が好きな理由のひとつなのかもしれないと、ふっと気づきました。個人的にすごく共感しやすい題材なんです。

 あ、でも手作りチョコレート事件の摩耶花も可愛かったなー。折木とえるの、微妙に進展のあるようなないような感じも、ちょっとニヤニヤしてしまいました。
 ということで、古典部シリーズがお好きな方なら必読。未読の方がためしに読まれるには、やや不向きかなあと思います。

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インシテミル (文春文庫)
インシテミル (文春文庫)

 読了。
 その求人情報誌に載っていた、人文科学的実験の被験者というアルバイトの広告は、時給一一二〇百円となっていた。
 誤植だと思いながら冷やかしのつもりで応募したもの、危ないとわかっていながら金がどうしても必要だったもの、応募した動機はさまざまだったが、ともかくその地下の施設には、十二人の男女が集められた。
 その地下施設にあるのは、生活に過不足のない共用空間のほかに、鍵のかからない個室がひとつずつ、それから、監獄と、霊安室。
 期間は七日間。何もせず、ただそこですごすだけでも、時給十一万二千円。さらに次の場合、破格のボーナスが加えられるのだという。
 すなわち、
 人を殺した場合。
 人に殺された場合。
 人を殺したものを指摘した場合。
 人を殺したものを指摘したものを補佐した場合。


 面白かった!!
 いや、あらすじからして怖そうで、血みどろぽくて、読むかどうか長く迷っていたのですが、読んでみたらすごく面白かったです。
 金銭の絡む殺人ゲームという、強い悪意のにおう筋書きには変わりありませんが、そこは語りと描写の妙というべきでしょうか。そういう悪趣味な茶番に怒りと嫌悪を見せる登場人物たちや、にもかかわらず起きてしまう殺人事件の動機など、そうした部分の書き込みが丁寧なことにくわえ、主人公の人がらの愛嬌もあって、思うほどはドロドロしていませんでした。むしろスリルと人物の内面描写のバランスがよくて、読みやすかったです。

 わたしはどうも普段から、本格ミステリの類は苦手で、トリックなんかも凝っていれば凝っているほどむしろ苦痛なほうでして、推理がどれほど緻密でも、登場人物の心情の描写が楽しめなければちっとも面白く感じないという、軟派を通り越してむしろ虚弱なミステリ読みなのですが、しかし本作は、推理ものとしても楽しめました。
 ふだんは推理小説をまったく推理せずに読む私が、一生懸命事件を整理しながら追いかけたくなりました。本格ミステリが好きな人の気持ちが、ちょっとわかった気がする。

 絶妙の伏線の配置と語り、丁寧な謎解き、事件と人物描写のバランス、続きが気になって次のページをどんどんめくらずにはいられない展開。
 これまで読んだ米澤さんの作品の中で、一番好きでした。次点は『犬はどこだ』かなあ。

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マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)

 読了。

 予知能力やタイムマシン、火星人類などを題材にしたSF短編集。

 ディック氏は古典SFの有名な作家さん、らしいです。(←最近ようやく古典SFにちらちら手を出し始めたばかりなので、まったく知識が追いついていない)
 こちらも有名な作品ですが、少し前に読んだ『電気羊はアンドロイドの夢を見るか?』が面白かったので、また手にとってみました。
 なかなか面白かった。1950年代に書かれた作品で、科学知識が古いので、火星人とか出てきてそこがまた味があっていいなあと思います。
 全体的に、ハードSFというよりも、SF設定を活かした皮肉なユーモアが楽しい感じです。

 ディック氏の作品は、映画化されたものが多くて、『ブレードランナー』もですけど、『スクリーマーズ』や『トータル・リコール』なんかも、ディック原作だったんだと、解説を読んで知りました。映画好きの友達に何気なく話をふってみたら、ものすごく食いついていました。私は映画は疎くて、その中では『スクリーマーズ』が面白かったような記憶があるくらいかなあ。でも、当然というかなんというか、原作と映画はかなり違うようなのですが。

『スクリーマーズ』の原作も、そのうち読んでみたいなあ。そのうち、収録されている本を探してみようと思います。

 あと、作中に突然出てきた空手チョップで吹きすぎて鼻水出ました。(食いつくところそこ!?)

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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