小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。

小人たちの新しい家―小人の冒険シリーズ〈5〉 (岩波少年文庫)
シリーズ五冊読了。
『床下の小人たち』『野に出た小人たち』『川をくだる小人たち』『空をとぶ小人たち』『小人たちの新しい家』で完結です。
安全ピンや針やボタンやすいとり紙……家の中においていたはずの、そうしたささやかな品物が、いざ探そうとするとどうしても見当たらない。それがどうしても不思議だと、ケイトはいう。
昔はイギリスのあちこちで、《ちいさい人たち》の話がかわされていた。けれどいまでは、もしいたとしても、せいぜいずっといなかのほうの、古い、静かな家くらいだろう――メイおばさんは針仕事の合間に、そう語りだす。
かつてメイおばさんの弟が、その目で小人たちを見たのだといって、繰り返し詳細に話してきかせてくれた。その古い家には、人の手のひらに乗るくらいの、小さな小人たちが隠れ住んでいて、その家の人間の食料や小物をこっそりと借りては、床下の隙間に、壁の裏側に、居心地のいい住処を作って暮らしていた……
ああ、なるほど、これは名作だ。
「アリエッティの映画版はどうでもいいけど原作は読んでおけ」と、友人から薦められて買ってみました。読んでおいてよかった。けれど、これは本当に自分が子どもだったときに読んでおきたかったなとも思います。いま読んでも面白いんだけど、大人になってしまってからではわからない面白さがある気がします。
小人たちは、魔法を使ったりもしなければ、不思議なわざをもっているわけでもない、ただ体が小さくて身軽だというだけの、ふつうの人間と同じような種族。人に見つかれば、駆除されるか見世物にされるかという危険のなかをしのんで、こっそりと夜中に『借り』に出て、借りてきたものをうまく工夫しては家具や衣服に作り変える。ときには人の目に見つかって、慌てて家を逃げ出すことも。中にははじめから人間の家には住まず、野外で狩りをして暮らすものもいる。
彼らはふつう、屋外になんて住みたくない、人間に見つかるなんてとんでもないと思っているのだけれど、アリエッティはその中でも変わり者。好奇心いっぱいで、外の世界に憧れているし、人間とも話をしてみたい。普段はしっかりしているのに、その好奇心を押さえきれず、両親をひやひやさせている。
人間に見つかって駆除されそうになり、あるいは住んでいた家が閉められることになって、あるいは強欲な商売人に見咎められて見世物にされそうになり……住処を求めてさまざまな危難を乗り越えていく一家。
ラストがちょっと、伏線が消化されきらないまま終わっちゃったというか、そこはわざと想像の余地を残したんだろうけど、それにしてももうちょっと詳しくその後を語ってほしかったなあと……。
設定というか、小人たちの暮らしにまつわる描写が、とにかく緻密で克明で、べつに異世界ものではないのだけれど、ハイ・ファンタジーと共通する種類の面白さがあるように思います。想像する楽しさ、をあらためて教えてくれた作品でした。
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中原の虹 (4) (講談社文庫)
文庫版全4巻読了。
面白かったー。『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』の続編です。
舞台は中国。時は清王朝の滅び行こうとしている、歴史の変わり目。それまでひとりの肩に清の行く末を背負って激務におわれていた西太后も、年老い、病に侵されて、じきに死にゆこうとしている。廃嫡された皇帝は心を病んだまま、離宮に幽閉されている。混乱の続く国を背負うに足る人材もおらず、各国はこの機に乗じて利権を得ようと画策を続けている。
そんな時代、東北にて群雄割拠の様相を呈する満州馬賊の中に、ひとりの英雄が現れた。張作霖。かつて皇帝の手から失われた龍玉を、満州の地にて見出した彼は、天意を得て満州の王者となり、やがては清王朝を打倒して新たな王朝を築こうとするが……
中華歴史大河ファンタジー。複数のキャラクターの視点を通して、西太后が亡くなる前後の時代を描いた本筋と、女真族が清国をつくった時代の伝説とを、いったりきたりしながら話は進みます。
かつて生き延びるために親兄弟を置き捨てて村を出、やがて銃と馬術で身を立てて、張作霖の手下になった李春雷。自ら宦官になる道を選び、やがて人望を集めて上におしたてられ、西太后の側近となった李春雲。貧しさゆえに生き別れとなった兄弟の、運命は大きくわかたれて……
恥ずかしながら歴史に暗いので、どこまでが史実で、どこからが創作か、よくわかっていないまま読んでしまったのですが、あとで調べたところ、登場人物には架空のキャラと実在の人物と混在しているようです。龍玉や天意や偉人の亡霊がどうこうというような、ファンタジー色の強い部分と、史実に基づく歴史小説としての部分があります。
張作霖のキャラクターにはあまり共感できなかったのですが、とりあえず、馬賊たちの描写に激しく痺れた……! ただ、彼らの行く末については、調べれば史実はわかるのですが、作中で語られた部分だけだと、ちょっと消化不良感がありました。
ほかにも探せばアラもあるような気がしますが(これ主人公誰なのとか、所々文章がくどいとか、キャラ立てがたまにブレてるとか、ええっそこで終わるの!? とか)、でもとにかく、読んでいてべらぼうに面白かったです。盛り上がったし泣いたし感動しました。春児たち兄弟の邂逅には、涙を禁じえません。
こういう本にあたると、面白い小説は減点法じゃわからないなあとつくづく思います。
さらに続編のマンチュリアン・レポートが刊行されているのですが、ここまできたら文庫落ちまでじっとガマンしようと思います……。が、がまんがまん。

今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)
読了。
みをつくし料理帖シリーズ第四弾。
日々料理人として腕をふるいながらも、ひそかに小松原に想いを寄せている澪。けれど相手は武士で、自分は後ろ盾もない、しがない料理人。身分違いの恋が認められるはずもないと、重々承知している澪は、想いを封じ込めようとするけれど……。
澪のけなげさが……。くっそうこれは卑怯だ!
もちろん恋愛ものとしての側面だけでなく、料理人としての澪の努力と苦心も、これまで以上に胸を打ちます。幼いころに生き別れになった親友・野江の状況についても、徐々に明らかになってきましたし、お隣の伊佐・おりょう夫婦の絆を描いた『寒紅』にも泣かされて、読みごたえのある一冊でした。すごく続きが楽しみなシリーズです。
大工の伊佐さんや、吉原の廓で包丁を握る又次といった脇役がすごく魅力的なのもシリーズの特徴。
あと、読んでてとにかく料理がおいしそうで……。ハートと一緒に胃袋までぎゅっと掴まれます。料理がおいしそうな小説はいいなあ。

元刑務官が明かす死刑のすべて
読了。
刑務所の中、死刑囚が収容される一角。刑が確定したあとも、その執行までには何年もの時間がかかる。やけになった囚人の暴動を防ぐ為に、直前まで知らされずにひっそりと執行される死刑……。
書店で見かけ、これは知っているようで知らない世界だと思い、ふらりと手にとってみました。ドラマの中では、刑事や裁判関係はよく出てくるけれど、死刑囚が執行までをどんなふうにすごすかは、あまり語られないですよね。
人を処刑する立場の人々の心理、長年の間の閉鎖環境がもたらした弊害と秘密主義、死刑制度の問題と、死刑廃止運動がかえってもたらした悲劇。わたしたちが普段は眼を逸らしている現実。もと刑務官が綴るノンフィクション。
内容そのものは、読んでよかったと思うのですが、ところどころ暴露本みたいな色があって、それがちょっと苦手だったかもしれません。もちろん、正義感から書かれているということは、読んでいてわかるのだけれど、糾弾調の文章だと、共感よりも、警戒心のほうがつい先に立つというか。この方の仰ることは、物事の大切な一面だけれど、またほかの角度から見つめなおす前に、この意見だけを頭から鵜呑みにするのは、やや尚早ではないかというような。
長年のあいだに降り積もった苦悩や不満がそうさせるのでしょうし、激しい論調になるのは、心情的にはわかる気がする。けれど、人は何かを糾弾するときには、とても視野が狭まるものだから、それをすべての真実であるかのように鵜呑みにして読むのは、ちょっと危険だなとも思います。そういうとき、ひとは自分の立場に偏ったものの見方をするものだから。
もっとも、一見、冷静で公平にみえる文章のほうが、ほんとはもっと騙されそうで危ないのかもしれないんですけど。
さておき、興味深い一冊でした。死刑廃止論の理想と現実。死刑が確定しても、せめて人として死なせたい、罪の重さを自覚して悔いてから死んでほしいという思い。中には以前と人が変わったような、悔悟の色の強く見て取れる死刑囚もいて、そうした囚人と長く日々をすごしたあとに、その相手を刑場に引き立てていく……。
死刑確定者の数であるとか、拘置所の組織であるとか、そういう部分にも意外な思いがしました。

水辺にて on the water / off the water (ちくま文庫)
読了。
エッセイ。カヤックにのって、イングランドの湿地で、かつてそこに生きた人々を思い、日本の川や湖で、水辺の鳥や植物を眺め、想像の翼を広げ、物語を探し当てて……。
カヤックを車の屋根に積んで、各地を漕いでまわられた作者さんの、深く静かな思索によってつづられた一冊。
いずれも美しいエッセイですが、熊野の瀞峡の描写が印象深かったです。それから、北海道の川を遡上するサケの描写に圧倒されました。
わたしはもともと、エッセイを読むのって苦手なたちで、気まぐれに読んでも点が辛めになる傾向がありますが、梨木さんと池澤夏樹さんのエッセイは、問答無用で大好きです。
池澤さんは、その幅広い知見と世界の広さ、ものごとのとらえ方に心を惹かれるのですが、梨木さんの場合は、その感性に、とても憧れます。鳥や植物にたいへんお詳しくて、自然や世界を見つめるそのまなざしの濃やかさに、胸がきゅーっとなります。見れるものなら、この方の目に映る世界を見てみたい……
いい読書時間でした。
プロフィール
HN:
朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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