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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
アラビアン・ナイト〈下〉 (岩波少年文庫)
アラビアン・ナイト〈下〉 (岩波少年文庫)


 岩波少年文庫版、上下巻読了。

 アラビアン・ナイトのたくさんのストーリーの中から、有名どころと、ほか数本を集めたもの。上巻には『船乗りシンドバッド』『アラジンと魔法のランプ』ほか二本が、下巻には『アリ・ババと四十人の盗賊』ほか五本が収録されています。

「そういえばアラビアン・ナイトをまともに読んだことがない」と思ったのだけれど、さすがに膨大な内容をかたっぱしから読むほどの勇気はもてなくて、とりあえず有名なものだけあつめたという、岩波少年文庫版を手にとってみました。さすがに児童書として出ているので、訳文がひらたくて読みやすいです。

 さて、波乱に満ちた冒険の数々に、不思議な出来事がいっぱいで、異国情緒あふれていて、読みごたえのある面白いストーリーがたくさん……なのだけれども、日本人的感覚で読むと、なんていうか、かなりえげつない感じでした。
 人をひどいいいがかりで殺したり、召使をひどい目に合わせたりした人間が、そのままめでたしめでたしと、良心の呵責もなくハッピーエンドを迎えたりするので、「えっ、あれっ……」と目が泳ぐこと数回。まあ、当時の人々の価値観を、いまの現代日本の感覚で読むのがそもそも見当違いなんだけれども、読んでてときどきぎょっとしました。

 そして、読みすすめていくうちに、オーバーな表現のゴテゴテ加減が、変にクセになってきました。ひとめで心奪われるすごい美女! とか、宝石ゴロゴロ!! とか、ものすごく賢くて人望のある王様! とか、とんでもない力をもった魔法使い! とか、パッキリわかりやすくて、それがなんかいいなと思います。

 現代日本の読み手さんを対象にしたものを書こうという自分が、そういう描写をそのまま自分の書き物に持ち込んだってしかたがないのですが、昔の人の奔放な想像力と豪快なホラを、多少なりと見習いたいような気がした読書体験でした。

 ……わたし、なにか間違った読み方をしていますね?(人さまに訊くな)
 ともあれ、なかなか面白かったです。いずれまた別の機会に、ほかの話も読んでみようっと。

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さよなら、そしてこんにちは (光文社文庫)
さよなら、そしてこんにちは (光文社文庫)


 読了。

 笑い上戸の葬儀屋、おっとりしすぎの料理研究家、特撮ものの俳優にミーハーな憧れを抱く子育て中の主婦、妻子からクリスマスを祝いたいとせがまれる住職……。ちょっとずれていて、ちょっとなさけなくて、ちょっといいところのある普通の人たちの、ちょっと笑える悩みアレコレ。

 日常ものの短編集です。
 癒されました……。『明日の記憶』や『ハードボイルド・エッグ』がそうだったように、感動の大作! とか、大爆笑請け合い! とかそういうのではないんですけど、ユーモラスで、ほんのりあたたかくて、地味に好きな一冊でした。
 荻原さんは、人の弱いところや情けないところや、それでもどうにか頑張って日常をふんばっているところなんかを描かれるのがすごくうまくて、人の弱さがじんわり愛しくなるような、そんな物語を提供してくれる作家さんです。

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薄紅天女 下 (徳間文庫)
薄紅天女 下 (徳間文庫)


 勾玉シリーズ最終作、文庫版上下巻読了。

 坂東の地で双子のようにして育ってきた藤太と阿高。実際には叔父と甥の関係にあたる二人だが、年は同じで、いつも二人でつるんで奔放にすごしてきた。
 阿高には、本人もしらない出生の秘密があった。ある日阿高のもとに、蝦夷たちがやってきて、あなたは我らの巫女、チキサニの生まれ変わりなのだといった。母である巫女がかつておかした罪のつぐないとして、自分たちに力を貸してくれと、彼らはいう。
 なりゆきで彼らについていくことになったものの、会ったこともない母の罪などしったことではないと思っていた阿高だが、やがて、亡き母の記憶の一部をかいま見て、逃れられない己の宿命を知る。
 世を乱すおそろしい呪いの根源と対決するため、阿高は藤太とともに、都を目指す。ともに生きて坂東の地に帰ると約束した二人だったが、阿高は、藤太が自分の宿命に巻き込まれたせいで、その命を落としかけるところを目の当たりにして……。

 前作からはぐっと時代がさがって、平安京遷都直前の日本が舞台。坂上田村麻呂、藤原薬子、空海といった、歴史の教科書でなじみのある名前がでてきます。舞台は坂東の地からはじまって、蝦夷地、そして長岡京へ。わたしは歴史がとんとだめで、教科書レベルの知識もろくろくないのですが、日本史お好きな方はもっと楽しいのかも?

 三部作の中では一番おもしろかったです。ヒロインに共感できたことが大きかった。(ヒロイン上巻では出てこないけど……)恋愛メインの恋愛ものは、もともと個人的にあまり楽しめないたちなのですが、恋愛もののつもりで読んでも楽しいんじゃないかなっていう気がします。

 長さ的にはいちばん短かったのだけれど、前二作よりも登場人物どうしの関係性をていねいに描かれてあることもよかったです。前作までのキャラのほうが、単独のキャラとしては個性的で魅力的だったのだけれど、キャラ同士の関係性とかは、いまいち印象に残らなかったんですよね。比べると今作では、キャラクター同士のやりとり、かけあいが魅力的でした。

 ぜいたくを承知でいえば、やっぱりもう少し、「このキャラとこのキャラの関係は、さらにもうちょっと丁寧に掘り下げてあったらもっとよかったのに」とか、「アイヌの人たちの風習を、もうちょい詳しく書いて欲しかった」みたいな部分がいろいろあって、もったいない気がしました。なんて、どれだけわがままなのかと……(汗)

 好き勝手なことばかり書いていますが、前二作のレビューのときにも触れましたように、思い入れのある好きなジャンルなので、必要以上に辛口になってるだけです。面白かった。読み応えたっぷりのいいシリーズでした。

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ラスト・イニング (角川文庫)
ラスト・イニング (角川文庫)


 文庫版全6巻+『ラスト・イニング』まで読了。

 じきに中学一年生になる原田巧は、幼いころにボールに魅入られて以来、これまでただひたすらに、いい球を投げることばかりを考えてきた。マウンドからキャッチャーミットまでの18.44メートル。その距離を割いてミットに飛び込む白球。巧にはときどき、ボールが生きて鼓動を打っているように感じられる……。
 ピッチャーとしての素晴らしい才能に恵まれ、ほんの子どもの頃から日々の練習をたゆまず己に課して、野球のことばかりを考えて生きてきた巧。野球だけが大切なことで、そのほかの雑事は何もかも、わずらわしいと思ってきた……。
 父親の転勤に従って、中学進学と同時に引っ越して祖父宅に住むこととなった彼は、中学に入る直前の春休みに、ひとりの少年とであう。永倉豪と名乗る、その同い年の少年は、よく手入れのされたキャッチャーミットをもっていた。

 豪と出会い、仲間たちと出会って、それまで野球以外のことはどうでもいいと思っていた巧が、少しずつかわっていく。
 悪い人間ではないのだけれど野球に無理解な両親、体が弱くてムリをするとすぐに熱を出すのに、自分の真似をしたがる弟。野球とぜんぜん関係のない、納得のいかない指導を押し付けてくる監督……。

 何度となく涙腺が熱くなりました。鋭く尖った、清冽な文章もよかったのだけれど、なにより、キャラクターとその変化が、すごく魅力的でした。
 主人公の巧もだけど、キャッチャーの豪も、弟の青波も、チームメイトもライバルも、それから大人たちも。それぞれに悩み、傷つき、少しずつかわっていく姿に胸が熱くなります。野球以外のことはどうでもいいといいながらも、人を傷つけてしまうたびに、自分も傷つく巧。いつかついていけなくなって、巧の球を捕ることができない日がくるのではないかと悩む豪。兄に憧れながらも自分の弱い体と戦い続ける青波……。思春期の、鋭く尖った感性と、傷ついてもそれを飲み込んで乗り越えていく柔軟さと。
 野球小説として、青春小説として、友情ものとして、あるいは親子の、兄弟の絆を描いた作品として。読んでよかった!

 あと、どうでもいいけど年々青春小説(マンガ)に弱くなっていく自分を感じます……か、加齢のせいにはしたくない。

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きみのためのバラ
きみのためのバラ


 再読。リンクは単行本ですが、最近文庫版も出版されました。

 考えてみたら初読のときにはまだこのブログをはじめていなかったので、あらためて。
 二読目のほうが味わいが深かった気がします。もっと人生経験を積んだころに、またあらためてゆっくり読み返してみたい一冊です。

 出会いと別れを描いた八本の短編。恋多き母親にたびたび貯金を持ち逃げされる娘。突然の病であっけなく新郎を失った新婦。何かに憑かれたようにきっかり十日間だけ求め合った男女。目的のない旅の中、南米の列車の中でほんの短い言葉を交わしただけの少女……

 どの作品も好きなのですが、『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』がとりわけ印象深かったです。
 少年が、父の友人に連れ出されて、カナダの海を見にいく。そのほとんど人気のない海辺で、畑をつくって釣りや猟をしながら、ときおり来る客を相手にコテージを経営しているのは、アリスというひとりの女性だった。少年はこれまで誰にも話したことのなかったつらい思い出を、アリスに語る。彼の父親は、ときおり前触れなく、家族に暴力をふるう人間だった……

 ちょっと何箇所か引用。

 私は木だ。林の中の一本の木。一本の木には何枚の葉があるかと私に問うたのは誰だっただろう。木である私はずっと昔の記憶しか持たず、ただそこに立って夏の美しい光と冬の弱い光を浴び、雨と雪と風を享け、一日単位の深呼吸をしている。木々は並び立っていつまでも生き、しかも言葉を必要としないと私は考えた。
 ――『ヘルシンキ』

「だから家族はやっかいなのね。中でどんなに争っていても、外に対しては結束する。家族は家族だからね。だから、青あざを作ってもどこかにぶつけたとか言って」
 ――『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』

「やがて突然に春が来た。ある朝、窓を開けると、空の色が違っていた。あの鉛色の雲が消滅して、青いまぶしい天蓋がパリを覆っている。そのくらいドラマティックだった。派手で、にぎやかで、街は鎧戸を開け放った屋根裏部屋のように明るい。誰もが外に出てくる。花が咲き、木が若葉をつける。それを透かして日の光が地面に緑色の影を揺する」
 ――『人生の広場』

 透き通った、清冽な空気。さらりと乾いた、けれどどこか優しい物語たち。

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プロフィール
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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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自己紹介:
朝陽遥(アサヒ ハルカ)またはHAL.Aの名義であちこち出没します。お気軽にかまってやっていただけるとうれしいです。詳しくはこちらから
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