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小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
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 中島敦『山月記』、芥川龍之介『藪の中』、太宰治『走れメロス』、坂口安吾『桜の森の満開の下』、森鴎外『百物語』。いずれも劣らぬ有名な文学作品を下敷きに、現代の物語として書きあげた短編、五本。

 いわゆる文学作品に造詣の浅いわたしでも、前三本は国語の教科書でお馴染み、坂口安吾は近年になって読みましたので、原作が未読なのは『百物語』一本でした。

 いやもう、唸るほかないです。
 内容は、完全に森見登美彦流の仕上がり。ただ原作を現代に置き換えたというようなアレンジではなく、完全に森見さん流の物語になっています。コミカルに、ときには皮肉に物悲しく、しっかりと作りこまれており、それでいて根底にはしっかり原作のテーマが流れているところが、なんていうか、すごい。

 いちばん好きだったのは『新釈 走れメロス』。
 主人公は京都大学の詭弁論部に所属する男、芽野四郎。図書館警察長官の陰謀により、理不尽にも詭弁論部は廃部の憂き目にあう。

 抗議に向かった芽野に、長官は提案する。僕はもう二度と人を信じないと決めたのだ。だがいきなり廃部というのも気の毒だ。もし君が、友人たちのために文化祭のステージに上り、グランドフィナーレで「美しく青きドナウ」に合わせて、桃色ブリーフ一丁で踊るというのならば、詭弁論部を廃部にするのは考え直そう。友のために、君は踊れるか?

 芽野はいう。もちろん踊って見せるとも。ただ俺に情をかけたいつもりなら、一日だけ猶予をくれないか。今日はこれから故郷で姉の結婚式に参列せねばならない。明日の日暮れまでには必ず戻ってきて、ブリーフ一丁でグランドフィナーレを務めてみせる。信じられないというのなら、詭弁論部の友人に芹名という男がいる。あれを人質としてここにおいていく。俺が逃げたら、あいつをブリーフ一丁で躍らせろ。

 かくして芽野はその場を後にし、人質として残された芹名は長官にいう。芽野に姉はいない。あいつは戻ってこんぜ。

 逃げまわる芽野、怒り狂って手下に芽野を追い掛け回させる長官、一人達観したように大人しく人質に甘んじる芹名。果たして芽野は戻ってくるのか。図書館警察長官は人を信じる心を取り戻すことができるのか。そしてブリーフ一丁で踊るのは誰だ。

 ひとこと……いや、ふたこといわせていただきたい。
 バカだー!
 だがそこが大好きだ!

 そこまで徹底してコミカルに仕上げてあるのは走れメロスだけで、あとの四編はまた違った味わい。独特のユーモアを交えつつも、原作に通じる苦さや怖さ、物悲しさがあって、しかしそれぞれにアレンジが効いていて、とても楽しい読書でした。
 原作を知らなくても読めるけれど、知っているほうが楽しさは三割増かなと思います。

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