小説を書いたり本を読んだりしてすごす日々のだらだらログ。
 未読の方向けのレビューではなくて、ネタバレ全開で語りたくなりました。とはいえまだ発売直後で、Twitterでネタバレまくり感想はちょっと気がひけたので、こちらで。というか久しぶりにブログ画面触ったな……

 ということで、以下、感想です。

ハルコナ (新潮文庫 あ 81-2 nex)
ハルコナ (新潮文庫 あ 81-2 nex)

 スギ花粉による被害が激化した社会に生まれるようになった、特異体質の人々。彼ら・彼女らの体質を利用することで、花粉症に苦しむ人々の生活を改善しようとする組織。
 この小説の世界で、犠牲になっているのはハルコや、彼女と同じ特異体質の人々だ。自分の周囲から花粉症を消し去ることができるかわりに、彼女ら自身はひどく花粉に弱い。ほんの少しの花粉でも命に関わるから、徹底的に花粉をとりのぞいた空間か、あるいは特殊なスーツの中でなければ生きていけない。

 彼ら、彼女らには人生の選択肢がない。特殊なスーツを着込んでしか外出できないが、スーツはひどく重量があって、視界も悪く、パートナーの介助なしには、ほんの数歩歩くだけのことも満足にできない。
 望んでそうなったわけでもないのに、ただそういう体質に生まれたというだけで、ハルコはものすごく不自由な生活を強いられている。
 けして望んでそうなったわけではないのに。

 ハルコのおかげで花粉症に苦しまずに済む周囲の人々は、彼女に感謝している。一方で、偏見に満ちた正義をふりかざして、彼女らを排除しようとする人々もいる。デモを起こしたり、置き石をしたり、ついにはボウガンで射かけてくる者まで出てくる。
 読んでいて思う。ハルコはもっと怒っていい。
 だが実際には、彼女は沈黙している。めったに感情をあらわにすることもなく、スーツを脱げる自宅でさえ、気のおけない間柄であるはずの主人公にさえ、ほとんど怒りや嘆きを見せない。むしろ彼女は遠慮がちに主人公を気遣い、家族を気遣い、友人たちを気遣っている。

 自宅以外では特殊なスーツの中に入っているハルコは、周囲からは、顔もほとんど見えない。会話もろくにできない。だから周囲は勝手に彼女の内心を想像して、自分の都合のいいように思い込む。作り上げた都合のいい虚像を押しつける。

 ハルコは怒らない。怒っているのは、いつも周囲の人々だ。彼女ら特異体質者の存在に怒り、彼女を利用して利益を得る組織に怒り、彼女を迫害する偏見に満ちた市民団体に怒る。それぞれの立場の人々が、それぞれの正義をふりかざして怒る。本人の言葉など聞きもしないで。

 後半、ハルコのクラスメイトたちは、ハルコを狙う悪質な市民団体に怒り、彼女を守るためといって自警組織を作りさえする。はじめはそれでも高校生らしい、可愛らしい活動だ。しかし市民団体の過激な連中とやりあううちに、次第に加熱し、「やっつけろ!」、怒りの声に支配されるようになる。彼らは気持ちよく怒る。正義が己の元にあるから。
 ハルコの意思などおかまいなしに。

 怒りをぶつけ、正論をぶつけ、徹底的にやりあって、相手に勝って……それで?
 それで、どうするというのか?
 誰も彼もを言い負かし、誰もいなくなったトークルームにぽつんと一人だけ残った貴族の姿が象徴的だ。

 怒りは伝染し、エスカレートする。
 主人公は言う。『みんな、誰の言うこともそれぞれには正しい。』
 ハルコの意思を無視して戦いはじめたクラスメイトたちにしても、もともとは彼らの中に、自分たちの生活がハルコの犠牲の上に成り立っていることへの後ろめたさがあったのだろう。だから、自分たちがハルコのために何かができるということが、嬉しかったのだと思う。目の前にわかりやすい敵が出てきたから。憎めばいい「悪」があらわれたから。
 狂気の出発点はたわいのない善意、ごくふつうの善良さなのだ。救いのないことに。


 わたしには、友人のためにと思った行動が、あだになった経験がある。
 人のために行動するということは、実はひどく難しい。地獄に通じる道は善意で舗装されている。何がほんとうに相手のためなのか、ということは、フィクションのストーリーを読む読者にはしばしば明確に提示されるが、現実に進行している事態の中でそれを見極めることは、どうしようもなく困難だ。
 わたしにはそういうことを後悔とともに苦く感じた経験がある。だからわたしにとって「ハルコナ」に登場する人々は、読んでいて恐ろしい。荒唐無稽なようでいて生々しいと感じる。彼らのわかりあえなさが、救いようがなく、寂しい。

 だけどこのストーリーはそれだけに終わらない。
 主人公は流されることに甘んじない。わからないものをわからないと切り捨てることをためらう。怒りという狂気に飲まれることをよしとしない。自分が何を望んでいるのか、何をするのがハルコを護ることになるのかを、考える。間違えそうになりながら、押し流されそうになりながら、踏みとどまって考える。
 望むものすべてを得ることはできない。物語の後味は、爽やかな大団円ではない。
 だけどそれでも彼は、譲れないものを見極め、護りたいものを選び取った。

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朝陽 遥(アサヒ ハルカ)
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